【ルーアン美術館】ルネサンス巨匠の傑作解説|ペルジーノからヴェロネーゼまで

ルーアン美術館コレクション ルネサンス パリから日帰り旅行
記事内に広告が含まれています。

ルーアン美術館には、ルネサンス期を彩った巨匠たちの傑作が息づいています。
ペルジーノの優美で静謐な宗教画、フランソワ・クルーエの精緻な宮廷肖像、パオロ・ヴェロネーゼの華麗な色彩美──時代も国も異なる画家たちが描いた作品は、それぞれに異なる輝きを放ち、訪れる人を500年前の世界へと誘います。
この記事では、ルネサンスを代表する4人の画家と、ルーアン美術館で鑑賞できる珠玉の作品を、背景や物語とともにたっぷりと解説します。

Sponsored Links

Pérugino (Pietro di Cristoforo Vannucci) (1448-1523)

ペルジーノ(Perugino、本名ピエトロ・ヴァンヌッチ)は、イタリア盛期ルネサンス初期を代表する画家で、特にウンブリア派の主要人物として知られています。(本名とは違う名で呼ばれているのは、1485年にペルージャの名誉市民に選定されたためです。)

彼の画風は、その優雅で調和のとれた構図、甘美な色彩、そして瞑想的で穏やかな雰囲気が特徴です。人物はしばしば理想化され、静かで端正な表情で描かれ、見る者に深い精神性と安らぎを与えます。

ペルジーノは、初期にはフィレンツェでピエロ・デラ・フランチェスカに師事したと考えられており、彼の作品に見られる空間の明晰さや光の表現にその影響が見られます。

ペルジーノとレオナルド・ダ・ヴィンチは、フィレンツェのアンドレア・デル・ヴェロッキオ(Andrea del Verrocchio)の工房で、ほぼ同時期に修行していました。

システィーナ礼拝堂やバチカン市国などの壁画を描いたことでも有名です。

彼は非常に成功した工房を運営し、特にルネサンスの巨匠ラファエロの師であったことでも有名です。ラファエロは初期の作品でペルジーノの様式を強く受け継ぎ、それをさらに発展させました。

L’ADORATION DES MAGES

L’Adoration des mages (1495) Le Baptême du Christ (1495) La Résurrection du Christ (1495)

ルーアン美術館に飾られているこれらの作品「東方三博士の礼拝」「キリストの洗礼」「キリストの復活」は、ペルージャのサンピエトロ大聖堂のために描かれた祭壇画の一部でした。

東方三博士の礼拝(L’Adoration des mages): キリストの誕生を祝福するために東方からやってきた三人の賢者(マギ)が、聖母マリアと幼子イエスに贈り物を捧げる場面を描いています。

キリストの洗礼(Le Baptême du Christ): ヨハネによるキリストの洗礼の場面を描いています。ペルジーノは同じテーマで他の作品も制作しており、このテーマは彼が繰り返し描いたものです。

キリストの復活(La Résurrection du Christ): 墓から復活したキリストの姿を描いています。

Sponsored Links

François Clouet (1510-1572)

フランソワ・クルーエは、フランス・ルネサンス期の画家で、特にヴァロワ朝の宮廷肖像画で知られています。

父ジャン・クルーエも宮廷画家であり、フランソワは父の死後、フランソワ1世のもとで宮廷画家の職を継ぎました。その後、アンリ2世、フランソワ2世、シャルル9世の4代にわたる国王に仕え、王族や貴族の肖像画を数多く手掛けました。

彼の作品は、顔の表情や衣装の細部までを驚くほど緻密に描き出すことで知られています。特にチョークや鉛筆で描かれた素描は、その写実性と繊細さから高く評価されています。

François Clouet

LE BAIN DE DIANE(1565)

『Le Bain de Diane』(ディアナの水浴)は、古代ローマの狩りの女神ディアナが、ニンフたちと共に森の中で水浴している場面を描いたものですが、単なる神話画としてではなく、当時のフランス宮廷の人物を寓意的に描いた作品として解釈されています。

Paolo Veronese (1528-1588)

パオロ・ヴェロネーゼは、本名をパオロ・カリアーリといい、1528年にヴェローナで生まれ、1588年にヴェネツィアで亡くなった、イタリア盛期ルネサンスを代表する画家です。出身地であるヴェローナにちなんで「ヴェロネーゼ」と呼ばれています。ティツィアーノ、ティントレットと並び、16世紀ヴェネツィア派の三大巨匠の一人とされています。

彼はヴェローナでアントニオ・バディーレのもとで絵画を学び、初期にはマニエリスム様式の影響も見られました。しかし、その後ヴェネツィアに移り、ティツィアーノらの影響を受けながら、独自の豪華で色彩豊かな画風を確立しました。

ルーブル美術館に展示されている、「カナの婚礼」は彼の作品の中でもとても評価の高いものです。

SAINT BARNABÉ GUÉRISSANT LES MALADES

SAINT BARNABÉ GUÉRISSANT LES MALADES (1566)

『Saint Barnabé guérissant les malades』(病人を癒す聖バルナバ)は、ヴェロネーゼの故郷ヴェローナにあるサン・ジョルジョ・イン・ブライダ教会の小さな礼拝堂のために描かれました。この教会は、聖バルナバに捧げられた病院に隣接していました。

『黄金伝説』に記されている、聖バルナバが弟子の聖マルコと共にキプロス島で宣教活動を行い、福音書を病人の頭にかざして奇跡的に病を癒す場面が描かれています。

Le Christ arretant la peste

Le Christ arretant la peste (1565)

『Le Christ arrêtant la peste』(ペストを止めるキリスト)は、ペストの流行を終わらせるために、聖母マリア、洗礼者ヨハネ、聖セバスティアヌス、聖ロクスがキリストに祈願する場面を描いています。ペストが猛威を振るう中、人々が神に救いを求める様子が表現されています。

Marten de Vos (1532-1603)

マールテン・デ・フォスは、フランドル派の画家で、特に宗教画、歴史画、そして版画の原画で知られています。彼は後期ルネサンスからマニエリスムにかけての時代に活躍しました。

デ・フォスは、若い頃にイタリアを訪れ、特にローマやヴェネツィアでティツィアーノやティントレットといった画家たちの作品に学びました。この経験は彼の画風に大きな影響を与え、フランドルの伝統的な写実主義と、イタリアのマニエリスム的な優雅さや壮麗さを融合させた独自のスタイルを確立しました。

David et Abigail

David et Abigail ou Alexandre et la famille de Darius

『David et Abigail ou Alexandre et la famille de Darius』(ダビデとアビガイル、あるいはアレクサンドロスとダレイオスの家族)の最も注目すべき点は、その主題が二重に解釈できることです。当時の画家が意図的に二つの異なる物語に共通する場面を描き、鑑賞者にどちらの物語か判断させるという、一種の知的遊戯のような側面を持っています。

『ダビデとアビガイル』: 旧約聖書に登場する物語です。怒ったダビデが、夫ナバルの無礼を詫びに来た賢女アビガイルに会い、彼女の言葉を聞き入れて復讐をやめる場面として解釈できます。

『アレクサンドロスとダレイオスの家族』: 古代史の物語です。イッソスの戦いでダレイオス3世を破ったアレクサンドロス大王が、捕らえられたダレイオスの母、妻、娘たちに寛大な心で接する場面として解釈できます。

どちらの解釈でも、権力者が慈悲深い行為を示すという共通のテーマが描かれています。

ELIÉZER ET REBECCA À LA FONTAINE

Eliézer demande Rébecca en mariage pour Isaac (1562)

Eliézer et Rébecca à la fontaine(1562)

Laban va chercher Eliézer à la fontaine (1562)

Laban présente Eliézer à son père, huile sur bois (1562)

『Eliézer demande Rébecca en mariage pour Isaac』(エリザエルがイサクのためにリベカに求婚する)は、聖書の創世記第24章に記されている物語を描いています。

アブラハムは、息子イサクの妻を探すために、最も信頼する僕エリザエルを故郷へ送ります。エリザエルは、井戸で水を汲みに来た女性の中で、自分だけでなくラクダたちにも水を飲ませてくれた女性をイサクの妻と定めます。その女性がリベカでした。絵画は、エリザエルがリベカに贈り物を渡し、彼女の家族に求婚を申し込む場面を描いています。

『Eliézer et Rébecca à la fontaine』(泉で出会うエリザエルとリベカ)では、画面中央に、リベカがエリザエルに水を差し出す姿が描かれ、背景にはラクダの群れや、当時のフランドルの風景が融合したような牧歌的な情景が広がっています。

『Laban va chercher Eliézer à la fontaine』(ラバンが泉でエリザエルを探す)は、泉でエリザエルと出会ったリベカが、エリザエルから贈られた美しい贈り物を身につけて家に帰ると、その話を聞いた兄のラバンが、エリザエルを歓待するために泉へと急いで迎えに行く場面です。

『Laban présente Eliézer à son père』(ラバンがエリザエルを父に紹介する)は、泉でエリザエルと出会った後、兄のラバンに家に案内されたエリザエルが、リベカの父であるベトゥエルに紹介される場面です。エリザエルは、アブラハムの忠実な僕として、イサクのためにリベカを妻として迎える使命を伝えようとしています。

これらの作品は、 l’église saint-Patrice de Rouen(聖パトリス教会)のために描かれた作品です。

Sponsored Links

まとめ

ルーアン美術館は、単なる美術展示の場ではなく、ルネサンスの息吹を現代に伝える「時の扉」です。
画家たちが命を吹き込んだ人物や物語は、何百年を経てもなお、私たちの心を揺さぶります。
もしあなたが歴史や芸術に魅力を感じるなら、この美術館で過ごすひとときは、きっと一生の宝物になるでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

ルーアン美術館に展示されている作品は以下の記事で詳しくご紹介させて頂いております。合わせてご参照ください。

コメント