美術館でルネサンス期の絵画を鑑賞する際、その写実的な表現や豊かな色彩に魅了された経験はありませんか?
初期ルネサンスは、まさに芸術における革命期であり、数々の巨匠たちが新たな技法と表現を追求しました。
この記事では、初期ルネサンス(1400年~1495年頃)の画家たちに焦点を当て、彼らの繋がりを示す人物相関図とともに、時代背景や代表的な作品について詳しく解説します。
初期ルネサンスとは?:技術革新とパトロンの出現
初期ルネサンスは、絵画における技術革新が著しい時代でした。
透視図法の確立、油彩技術の導入、キャンバスの普及など、新たな表現手法が次々と生まれました。
また、メディチ家をはじめとする裕福なパトロンの出現は、芸術家たちの活動を支援し、ルネサンス文化の発展を加速させました。
初期ルネサンスの技術革新
透視図法の確立
フィリッポ・ブルネレスキによって透視図法が完成し、絵画に奥行きと立体感がもたらされました。
透視図法の完成は、ルネサンス最大の発明とも言われています。
1427年には、マサッチオが、透視図法のフレスコ画を初めて製作しました。
油彩技術の確立
ヤン・ファン・エイク(初期フランドル)が油彩技術を確立し、従来のテンペラ画では難しかった、より豊かな色彩と光の表現が可能になりました。
キャンバスの普及
1460年~1470年頃、ヴェネツィアで帆布を使用したキャンバスが開発され、絵画の携帯性と耐久性が向上しました。
人体解剖の導入
1480年代以降、レオナルド・ダ・ヴィンチらによって人体解剖が行われ、より正確な人体描写が可能になりました。
主題の多様化
キリスト教主題に加え、ギリシャ神話などの世俗的な主題が描かれるようになり、表現の幅が広がりました。
パトロンの登場
- メディチ家(フィレンツェ)、ミラノ、フェッラーラなどの裕福な一族が、芸術家たちのパトロンとして活動しました。
- 教会や王族だけでなく、一般市民も芸術作品を所有するようになり、芸術市場が拡大しました。
それまでは、教会や王族からの支援が、画家たちの主な収入だったことを考えると、とても大きな変革です。
代表画家
フィリッポ・ブルネレスキ(Filippo Brunelleschi, 1377-1446)
- ルネサンス建築の先駆者。
- フィレンツェ大聖堂のクーポラを設計し、遠近法の理論を確立。
ロレンツォ・ギベルティ(Lorenzo Ghiberti, 1381-1455)
- 彫刻家、金細工師。
- フィレンツェ洗礼堂の「天国の門」と呼ばれる東扉を制作。
ドナテッロ(Donatello, 1386-1466)
- ルネサンス彫刻の巨匠。
- 古代彫刻の様式を復興し、写実的で感情豊かな作品を制作。
パオロ・ウッチェロ(Paolo Uccello, 1397-1475)
- 初期ルネサンスの画家。
- 遠近法の研究に没頭し、独特の空間表現を追求。
マソリーノ(Masolino da Panicale, 1383-1440頃)
- 初期ルネサンスの画家。
- マサッチオの師であり、共同でブランカッチ礼拝堂のフレスコ画を制作。
マサッチオ(Masaccio, 1401-1428)
- 初期ルネサンスの天才画家。
- ジョットの様式を継承し、写実的で人間味あふれる人物表現を確立。
フィリッポ・リッピ(Fra Filippo Lippi, 1406-1469)
- 初期ルネサンスの画家。
- 愛らしい聖母子像や、物語性豊かなフレスコ画を制作。
アンドレア・デル・カスターニョ(Andrea del Castagno, 1420-1457)
- 初期ルネサンスの画家。
- 力強く写実的な人物表現と、劇的な場面構成を特徴とする。
アントニオ・デル・ポッライオーロ(Antonio del Pollaiolo, 1429-1498)
- 初期ルネサンスの画家、彫刻家。
- 人体解剖学に精通し、躍動感あふれる人物表現を得意とする。
アンドレア・デル・ヴェロッキオ(Andrea del Verrocchio, 1435-1488)
- 初期ルネサンスの彫刻家、画家。
- レオナルド・ダ・ヴィンチの師であり、写実的で洗練された作品を制作。
ピエロ・ポッライオーロ(Piero Pollaiolo, 1441-1496)
- 初期ルネサンスの画家。
- アントニオ・デル・ポッライオーロの弟であり、兄と共同で作品を制作することも多かった。
サンドロ・ボッティチェッリ(Sandro Botticelli, 1445-1510)
- 初期ルネサンスの画家。
- 優美な曲線と叙情的な人物表現を特徴とし、「ヴィーナスの誕生」「春」などの傑作を残しました。
ロレンツォ・ディ・クレディ(Lorenzo di Credi, 1459-1537)
- 初期ルネサンスの画家。
- ヴェロッキオの工房で学び、レオナルド・ダ・ヴィンチと同門でした。
- 写実的で繊細な人物表現を得意としました。
ピエトロ・ペルジーノ(Perugino、1448-1523)
- 初期ルネサンスの画家。
- ラファエロの師であり、穏やかで調和のとれた作風を特徴とします。
フィリッピーノ・リッピ(Filippino Lippi,1457-1504)
- 初期ルネサンスの画家。
- フィリッポ・リッピの息子であり、ボッティチェッリの弟子でした。
- 幻想的で装飾的な作風を特徴とします。
レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci、1452-1519)
- ルネサンスの万能の天才。
- 画家、彫刻家、科学者、技術者など多岐にわたって活躍し、「モナ・リザ」「最後の晩餐」などの傑作を残しました。
ミケランジェロ・ブオナローティ(Michelangelo Buonarroti Simoni、1475-1564)
- ルネサンスの巨匠。
- 彫刻、絵画、建築など多岐にわたって才能を発揮し、「ダビデ像」「システィーナ礼拝堂天井画」などの傑作を残しました。
ラファエロ・サンティ(Raffaello Santi、 1483-1520)
- ルネサンスの巨匠。
- 調和のとれた美しい人物表現と、均整の取れた構図を特徴とし、「アテナイの学堂」「聖母子像」などの傑作を残しました。
国際ゴシック様式の流れ
ドメニコ・ヴェネツィアーノ(Domenico Veneziano, 1410-1461)
- 初期ルネサンスの画家。
- 光と色彩の表現に優れ、ピエロ・デラ・フランチェスカの師としても知られています。
- 代表作「聖ルチア祭壇画」は、初期ルネサンス絵画の傑作として知られています。
ピエロ・デラ・フランチェスカ(Piero della Francesca, 1412-1492)
- 初期ルネサンスの画家。
- 数学的な構成と正確な遠近法、そして光と色彩の巧みな使用により、静謐で均衡の取れた作品を生み出しました。
- 代表作「キリストの鞭打ち」は、彼の代表的な作品の一つです。
ジョヴァンニ・サンティ(Giovanni Santi 1435–1494)
- 初期ルネサンスの画家。
- ラファエロの父であり、初期のラファエロに絵画の基礎を教えました。
- 宮廷画家として、多くの祭壇画や肖像画を制作しました。
アントニアッツォ・ロマーノ(Antoniazzo Romano, 1430頃-1510頃)
- 初期ルネサンスのローマ派の画家。
- 宗教画を数多く制作し、ローマの美術界で重要な役割を果たしました。
- 聖母子像の制作で特に知られています。
メロッツォ・ダ・フォルリ(Melozzo da Forlì, 1438頃-1494)
- 初期ルネサンスの画家。
- 遠近法を用いた大胆な天井画を得意とし、その技法は後のバロック絵画に影響を与えました。
- ローマのサンティ・アポストリ教会の天井画などが代表作です。
ギルランダイオ工房
ギルランダイオ一族は、フィレンツェの美術界において重要な役割を果たし、特にドメニコはルネサンス期のフィレンツェの様子を現代に伝える貴重な作品を数多く残しました。
ドメニコ・ギルランダイオ(Domenico Ghirlandaio、1449-1494)
- 初期ルネサンスのフィレンツェ派の画家。
- 写実的で詳細な描写と、当時のフィレンツェ市民の生活を描き込んだフレスコ画で知られています。
- 代表作は、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会のトルナブオーニ礼拝堂のフレスコ画です。
ダヴィデ・ギルランダイオ(Davide Ghirlandaio, 1452-1525)
- ドメニコの弟であり、兄の工房で働きました。
- ドメニコの死後は工房を継承し、多くの作品を制作しました。
ベネデット・ギルランダイオ(Benedetto Ghirlandaio, 1458-1497)
- ドメニコとダヴィデの弟であり、同じく兄の工房で働きました。
- 兄弟と共に多くの作品を制作しましたが、比較的早く亡くなりました。
リドルフォ・ギルランダイオ(Ridolfo Ghirlandaio, 1483-1561)
- ドメニコの息子であり、父の工房で学びました。
- 初期にはラファエロの影響を受け、後にマニエリスムの様式を取り入れました。
ヴェネツィア派(盛期ルネサンスを含む)
ヤーコポ・ベッリーニ(Jacopo Bellini、1400-1470)
- ヴェネツィア派の創始者。
- 素描に優れ、写実的な人物表現と風景描写を特徴とします。
ジェンティーレ・ベッリーニ(Gentile Bellini, 1429-1507)
- ヴェネツィア派の画家。
- ヴェネツィアの風景や儀式を描いた作品で知られています。
ジョヴァンニ・ベッリーニ (Giovanni Bellini, 1430-1516)
- ヴェネツィア派の巨匠。
- 豊かな色彩と光の表現により、ヴェネツィア派の黄金時代を築きました。
ジョルジョーネ(Giorgione 1477/1478-1510)
- ヴェネツィア派の画家。
- 詩情豊かな風景画と、謎めいた寓意画で知られています。
ロレンツォ・ロット(Lorenzo Lotto、1480-1556/1557)
- ヴェネツィア派の画家。
- 個性的な肖像画と、宗教的な寓意画を制作しました。
ティツィアーノ(Titian 1488/1490-1576)
- ヴェネツィア派の巨匠。
- 華麗な色彩と大胆な筆致により、ヴェネツィア派の黄金時代を築きました。
セバスティアーノ・デル・ピオンボ(Sebastiano del Piombo, 1485-1547)
- ヴェネツィア派の画家。
- ミケランジェロの影響を受け、力強い人物表現を特徴とします。
アンドレア・マンテーニャ(Andrea Mantegna, 1431-1506)
- 北イタリアの画家。
- 古典的な様式と、正確な遠近法を用いた作品を制作しました。
リベラーレ・ダ・ヴェローナ(Liberale da Verona, 1441–1526)
- ヴェローナ派の画家。
- 細密な描写と、鮮やかな色彩を用いた作品を制作しました。
ジョバンニ・フランチェスコ・カロト(Giovanni Francesco Caroto, 1480-1555)
- ヴェローナ派の画家。
- ヴェロネーゼの師であり、ヴェローナ派の発展に貢献しました。
パオロ・ヴェロネーゼ(Paolo Veronese, 1528-1588)
- ヴェネツィア派の画家。
- 壮大な構図と、豪華な色彩を用いた作品を制作しました。
アントネロ・ダ・メッシーナ(Antonello da Messina, 1430-1479)
- シチリアの画家。
- フランドル絵画の技法を取り入れ、油彩画の発展に貢献しました。
パドヴァ派
フランチェスコ・スクァルチォーネ(Francesco Squarcione, 1397-1468年)
- パドヴァ派の画家、教育者。
- 古典美術の収集家であり、多くの若い画家を育成しました。
- アンドレア・マンテーニャの師としても知られています。
コズメ・トゥーラ(Cosmè Tura, 1430-1495)
- フェラーラ派の画家。
- 独特の鋭角的な線描と、金属的な質感の表現を特徴とします。
- フェラーラのエステ家の宮廷画家として活躍しました。
フランチェスコ・デル・コッサ(Francesco del Cossa, 1430-1477)
- フェラーラ派の画家。
- コズメ・トゥーラと共に、フェラーラ派の様式を確立しました。
- ボローニャのパラッツォ・スキファノイアのフレスコ画が代表作です。
エルコレ・デ・ロベルティ(Ercole de’ Roberti, 1451頃-1496)
- フェラーラ派の画家。
- コズメ・トゥーラの弟子であり、師の様式を受け継ぎました。
- 劇的な場面構成と、感情豊かな人物表現を特徴とします。
ドイツの画家
ルーカス・クラナッハ(父)(Lucas Cranach the Elder, 1472-1553)
- ドイツ・ルネサンスの画家。
- ザクセン選帝侯の宮廷画家として活躍しました。
- 宗教画、神話画、肖像画など幅広いジャンルの作品を制作しました。
- マルティン・ルターと親交が深く、宗教改革を支持する作品も多く残しました。
ルーカス・クラナッハ(子)(Lucas Cranach the Younger, 1515-1586)
- 父と同じくドイツ・ルネサンスの画家。
- 父の工房を継承し、父の様式を受け継ぎながらも、独自の作品を制作しました。
- 宗教改革後のプロテスタント美術の発展に貢献しました。
※ 分類が違う場合もあります。
前期ルネサンス、盛期ルネサンスの画家が含まれている場合もあります。
カタカナ表記に関して実際の発音と異なる場合もあります。
人物相関図
フィレンツェ等

ヴェネツィア・パドヴァ

★ご利用の注意点★
上の代表画家の相関図です。
青い矢印は師弟関係を表していますが、実際はその関係がはっきりしていなかったり、ワークショップで働いたことがあるだけであったりします。
情報は英語版、フランス語版ウィキペディアを参考に製作しています。
人物相関図からわかること
- フィレンツェを中心に、多くの才能ある画家たちが集まり、互いに影響を与え合いながら芸術を発展させたことがわかります。
- ヴェネツィア、パドヴァなど、フィレンツェ以外の都市でも、独自の芸術が発展したことがわかります。
- 巨匠たちの師弟関係や交流関係を知ることで、作品の背景にある物語がより深く理解できます。
まとめ
いかがでしたか。
すでにご存知の画家も多数いたのではないでしょうか。
初期ルネサンスは、技術の発展に伴い、とても素晴らしい作品が多数制作されました。
フィレンツェを中心として花開いたルネサンスも、最大のパトロン、「ロレンツォ・デ・メディチ(Lorenzo de’ Medici ,1449-1492)」の死と、1494年の第1次イタリア戦争の影響により衰退し、中心地はローマへと移っていきます。
そしてこの時代を引き継ぐのが、ルネサンスの理想美を完成させる、盛期ルネサンスの3大巨匠である、「ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ」になります。
次回はこの3大巨匠が中心となる、「盛期ルネサンス」についてご紹介させて頂きます。
Proto-Renaissance(前期ルネサンス)については以下の記事をご参照ください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
西洋美術史の全体像は年表でご紹介させて頂いております。
合わせてご覧頂くと時代の流れが理解しやすくなると思います。
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