ストラスブール近現代美術館コレクション:ミロ、エルンスト!キュビスム、未来派、ダダ、シュルレアリスムの軌跡を辿る旅

ストラスブール近現代美術館コレクション:ミロ、エルンスト!キュビスム、未来派、ダダ、シュルレアリスム パリから日帰り旅行
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ストラスブール近現代美術館は、20世紀に勃興した前衛芸術の息吹を色濃く感じられる特別な場所です。

今回は、キュビスムの革新的なフォルムを生み出したジャック・リプシッツ、デ・ステイルの厳格な幾何学抽象を追求したセザール・ドメラ、ダダイスムの破壊と創造を体現したマルセル・ヤンコやジャン・アルプ、そして夢と無意識の世界を描き出したシュルレアリスムのマックス・エルンストやジョアン・ミロ、ヴィクトール・ブラナ―、ロベルト・マッタまで、既存の概念を打ち破り、新たな芸術の地平を切り開いた巨匠たちの作品をご紹介します。

彼らが残した挑戦的な創造の軌跡を、ぜひその目で確かめてみませんか?

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Jacques LIPCHITZ (1891-1973)

ジャック・リプシッツは、リトアニア生まれのユダヤ系フランス人彫刻家で、キュビスム彫刻の先駆者として知られています。

1910年代にパリに移住し、ピカソやグリスと親交を結び、キュビスムの絵画の理念を彫刻に応用しました。幾何学的で構築的なフォルムの作品から、徐々に有機的でダイナミックな形態に移行し、神話や宗教的主題も取り入れています。

Jacques LIPCHITZ

Nature morte aux instruments de musique (1918)

Nature morte aux instruments de musique(楽器のある静物) は、彼のキュビスム期を代表する彫刻のひとつです。

この作品では、ヴァイオリンやクラリネットなどの楽器をモチーフに、幾何学的に分解・再構成した形態が積み重なり、キュビスムの理念を三次元で表現しています。

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César DOMELA (1900-1992)

セザール・ドメラは、オランダ出身の画家・彫刻家・版画家で、デ・ステイル(De Stijl)運動の後期メンバーとして知られています。

幾何学的抽象を追求し、モンドリアンらと同様に直線や基本色を用いたミニマルな表現を展開。絵画だけでなく、彫刻やモザイク、写真、建築デザインにも取り組み、20世紀モダニズム芸術の発展に寄与しました。

Relief 10

Relief 10 (1981)

幾何学的でシンプルな形状が平面から立体的に浮かび上がり、光と影の効果によって構成のリズムや動きを生み出しています。素材には金属や木材などを用い、モダニズムの理念に基づく機能美とミニマリズムが特徴です。

Marcel JANCO (1895-1984)

マルセル・ヤンコは、ルーマニア出身の画家・建築家・舞台デザイナーで、ダダイスムの創始メンバーの一人として知られています。

1916年、第一次世界大戦中にスイス・チューリヒのカバレット・ヴォルテールで活動し、ダダ運動の中心人物となりました。絵画では幾何学的で抽象的なスタイルを展開し、その後は建築や舞台美術にも活躍の場を広げました。

Marcel JANCO

Blanc sur blanc (1917)

Blanc sur blanc (白の上の白)は、モノクロームに近い非常に抑制された色調で構成され、幾何学的な形態や抽象的な線が重なり合うことで、視覚的なリズムと空間感を生み出しています。

Max ERNST (1891-1976)

マックス・エルンストは、ドイツ出身の画家・彫刻家・詩人で、ダダイスムとシュルレアリスム(超現実主義)の中心的人物の一人です。

第一次世界大戦後にケルン・ダダに参加し、のちにパリでシュルレアリスム運動に加わり、夢や無意識の世界を探求しました。フロッタージュ(こすり出し)やグラッタージュ(引っ掻き)などの独自の技法を発明し、偶然性を活かした詩的で幻想的なイメージを生み出しました。

Les Poissons noctambules

Les Poissons noctambules (1972)

Les Poissons noctambules(夜遊びする魚たち) は、彼の晩年の幻想的で詩的な世界観が表れた作品です。

この作品では、深い闇の中を漂うような不思議な魚たちが、夢のような雰囲気の中に描かれています。彼が長年探求した無意識や夢、自然界の神秘といったテーマを、鮮やかな色彩と有機的なフォルムで表現しています。

Après moi le sommeil

Après moi le sommeil (1958)

Après moi le sommeil(私のあとに眠りが) は、夢と現実、意識と無意識のあいまにあるような不思議な世界を暗示しています。作品には、エルンストが得意とした有機的で神秘的な形態や、偶然性の技法を活かした質感が見られ、静謐でありながらも不安を誘うような、夢の深層を思わせるイメージが広がっています。

Joan MIRÓ (1893-1983)

ジョアン・ミロは、スペイン・カタルーニャ出身の画家・彫刻家・版画家で、20世紀を代表するシュルレアリスムの巨匠の一人です。

初期はフォービズムやキュビスムの影響を受けましたが、やがて夢や無意識、詩のような自由なイメージを追求し、独自のスタイルを確立しました。星や月、鳥、人などを思わせるシンボルと、鮮やかな色彩、遊び心のある抽象的な形が特徴です。

Peinture

Peinture (1927)

Peinture (絵画)は、抽象的で有機的な形態が黒や鮮やかな色彩で描かれ、夢や無意識のイメージが自由奔放に展開されています。線や点、曲線がリズミカルに配置され、詩的で幻想的な空間を作り出しています。

Victor BRAUNER (1903-1966)

ヴィクトール・ブラナ―は、ルーマニア生まれの画家で、シュルレアリスム(超現実主義)の重要な一人です。

パリを拠点に活動し、夢や神話、魔術的なイメージを独自の幻想的なスタイルで表現しました。特に象徴的で神秘的なモチーフや超自然的な存在を描き、強烈な色彩と独創的なフォルムが特徴です。

Strigoï, La Somnambule

Strigoï, La Somnambule (1946)

Strigoï, La Somnambule (ストリゴイ、夢遊病者)は、彼のシュルレアリスム期を代表する幻想的で神秘的な作品です。

「Strigoï」は東ヨーロッパの伝説に登場する吸血鬼的な存在を指し、「La Somnambule」は「夢遊病者」を意味します。作品は、夢と現実の境界を曖昧にし、不気味で超自然的な雰囲気を漂わせています。

L'Animal moderne solidifiant l'autre temps

L’Animal moderne solidifiant l’autre temps (1942)

L’Animal moderne solidifiant l’autre temps(もう一つの時間を固める現代の動物) は、幻想的で象徴的な動物のイメージが時間や存在の二重性を表現し、現実と夢、過去と未来の境界を曖昧にしています。Brauner特有の神秘的で詩的なモチーフと複雑な構成が組み合わさり、内面世界の深淵を探るシュルレアリスムの精神が色濃く表れた作品です。

Rencontre avec moi-même aux quatre chats du monde

Rencontre avec moi-même aux quatre chats du monde (1948)

Rencontre avec moi-même aux quatre chats du monde(世界の四匹の猫での自己との出会い) は、象徴的な猫たちとともに、自己の内面や多重的な自己認識が幻想的かつ詩的に描かれています。

La Parole

La Parole (1938)

La Parole(言葉) は、象徴的で抽象的な形態を通じて、言葉やコミュニケーションの神秘性や力を表現しています。

Logos et les trois matières

Logos et les trois matières (1962)

Logos et les trois matières(ロゴスと三つの物質) は、哲学的・神秘的な「ロゴス(理性や言葉)」と、物質的・感覚的な三つの異なる「物質」が象徴的に描かれ、精神と物質、抽象と具象の対比や融合が探求されています。

Roberto Matta (1911-2002)

ロベルト・マッタは、チリ出身の画家で、20世紀を代表するシュルレアリストの一人です。

元々は建築を学び、後にパリでシュルレアリスムに参加。無意識や宇宙、心理の深層を探求した抽象的で有機的な形態と鮮やかな色彩が特徴です。

Composition

Composition (1970)

Composition(構成) は、自由で流動的な有機的形態が鮮やかな色彩とともに画面いっぱいに展開し、宇宙的で心理的なエネルギーが表現されています。

Jean ARP (1886-1966)

ジャン・アルプは、アルザス(当時ドイツ領)のストラスブールに生まれた画家、彫刻家、詩人です。彼は、20世紀の最も重要な芸術運動であるダダとシュルレアリスムの創設メンバーの一人であり、抽象芸術の発展に多大な貢献をしました。

Le Crucifié

Le Crucifié (1914-15)

「Le Crucifié(磔刑像)」は、彼がダダ運動に参加する直前、あるいは初期の重要な作品であり、彼の芸術における大きな転換点を示しています。

この時期のヨーロッパは第一次世界大戦の勃発という激動の時代にあり、多くの芸術家が既存の価値観や表現方法に疑問を抱いていました。アルプもまた、伝統的な具象表現から離れ、より本質的で、時に挑発的な抽象表現へと向かっていきます。

La Petite Déméter

La Petite Déméter (1960) 左から

Torse-Profil (1959)

Figure recueillie (1956)

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まとめ

ストラスブール近現代美術館が誇る前衛芸術のコレクションは、20世紀に芸術家たちが繰り広げた、既成概念への挑戦と新たな表現の探求を雄弁に物語っています。キュビスムの立体的な解体、ダダイスムの挑発、シュルレアリスムの夢想、そして幾何学的な抽象から有機的なフォルムへの進化まで、展示された作品群は、芸術がいかに多様な姿を持ち得るかを教えてくれます。

今回ご紹介したのは、その広大なコレクションのほんの一部に過ぎません。ストラスブール近現代美術館を訪れた際は、言葉や常識を超えた芸術の力を体感してください。これらの作品が放つエネルギーとメッセージは、きっとあなたの心に深く響き、新たな視点をもたらしてくれることでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

ストラスブール近現代美術館に展示されている作品については、以下の記事で詳しくご紹介させて頂いております。合わせてご参照ください。

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