リール宮殿美術館 コレクション 初期ネーデルラント絵画・ゴシック末期・盛期ルネサンスとマニエリスム

リール美術館 初期ネーデルラント絵画・ゴシック末期・盛期ルネサンスとマニエリスム パリから日帰り旅行
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リール宮殿美術館は、パリ近郊に位置しながら、ルーブル美術館に次ぐ規模を誇る、知る人ぞ知るアートの宝庫です。

本記事では、特に初期ネーデルラント絵画からルネサンス、マニエリスムに至るまでの貴重なコレクションに焦点を当ててご紹介します。ヒエロニムス・ボスやルーカス・クラナッハといった巨匠たちの作品から、作者不詳の神秘的な祭壇画まで、作品に秘められた物語や画家の想いを紐解いていきましょう。

事前に少しでも知識があれば、限られた時間の中でも、より深く作品を味わうことができます。さあ、あなたもリール宮殿美術館で、時を超えた芸術の旅に出かけませんか?

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作者不明作品

TRIPTYQUE DE LA NATIVITÉ DU CHRIST

TRIPTYQUE DE LA NATIVITÉ DU CHRIST 

この三連祭壇画は、キリストの降誕を中心とした物語を、初期フランドル派の様式で描いています。

  • 中央パネル:キリスト降誕の崇拝 生まれたばかりのイエス・キリストを中心に、母マリアと一群の天使たちが描かれています。手を合わせて祈る様子や、ろうそくを持つヨセフ、バグパイプを持つ人物を含む見物人が描かれています。
  • 左翼パネル:受胎告知 イエスが生まれる前の場面で、大天使ガブリエルがマリアに受胎を告げる様子が描かれています。
  • 右翼パネル:幼児虐殺 ヘロデ王の命令による幼児虐殺の悲劇的な場面が描かれています。槍で刺された子供と嘆き悲しむ母親の姿が痛ましいです。ヨセフ一家のエジプトへの逃避も暗示されています。
  • シャッター裏側:聖ペテロと聖パウロに付き添われた修道士 扉を閉じた際に現れるこれらの像は、後に追加されたと考えられています。
La Vierge du Rosaire

La Vierge du Rosaire

「La Vierge du Rosaire(ロザリオの聖母)」は、聖母マリアにロザリオ(数珠)を渡す場面が描かれています。

イタリアの画家の作品のようです。

L'adoration des bergers

L’adoration des bergers、L’adoration des Mages

「L’adoration des bergers(羊飼いの礼拝)」は、素朴な羊飼いたちが描かれ、簡素ながらも静謐で敬虔な雰囲気が特徴です。彼らの驚きと喜びが、簡潔な構図の中に表現されています。

「L’adoration des Mages(東方三博士の礼拝)」は、豪華な衣装をまとった三博士や、彼らを囲む人々が描かれています。

ドイツ、またはバスク地方の作品です。

La Couronnement de la Vierge

La Couronnement de la Vierge

「La Couronnement de la Vierge(聖母戴冠)」は、中世後期の絵画様式である、光り輝く黄金の背景が使われており、天上の神聖な雰囲気を際立たせています。鮮やかで豊かな色彩が特徴で、青いローブをまとった聖母マリアを中心に、多数の天使や聖人たちが描かれています。

L'ADORATION DES BERGERS

L’ADORATION DES BERGERS (1510-30) 右側 リールの画家

La Deploration du Christ  左側

「L’Adoration des bergers(羊飼いの礼拝)」は、『ルカによる福音書』に記されている、イエスの誕生を天使から告げられた羊飼いたちが、幼子イエスを訪れて礼拝する場面を描いています。

「La Déploration du Christ(キリストの嘆き)」は、イエス・キリストが十字架から降ろされた後、その遺体を聖母マリアや使徒ヨハネ、マグダラのマリアらが囲み、悲しみにくれる場面を描いたものです。

Portraits de Barbe de Croesinck et Louis Quarre et en donateurs

Portraits de Barbe de Croesinck et Louis Quarré et en donateurs

「寄進者としてのバルブ・ド・クロエジンクとルイ・カレの肖像」は、15世紀末に活動したフランドル派の画家「Maître au feuillage en broderie(刺繍のような葉の画家)」に帰属される作品です。

この作品はもともと三連祭壇画の両翼を構成していたもので、中央には聖母子像が描かれていたと考えられています。描かれているのは、当時の税金徴収人であったルイ・カレとその妻バルブ・ド・クロエジンクで、彼らが祈りを捧げている姿が風景を背景に描かれています。

TRIPTYQUE DE LA VIERGE À L’ENFANT

TRIPTYQUE DE LA VIERGE À L’ENFANT

「TRIPTYQUE DE LA VIERGE À L’ENFANT(聖母子三連祭壇画)」は、左右に開閉可能な翼を持つ三連祭壇画の形式をとっており、中央パネルには幼子イエスを膝に乗せた聖母マリアが描かれています。

Le Baptême du Christ

Le Baptême du Christ (1530)

「Le Baptême du Christ(キリストの洗礼)」は、ヨハネがイエスをヨルダン川で洗礼する場面を描いています。

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Jacomart (1411-1461)

スペインのゴシック後期を代表する画家Jacomart(ジャコマール)は、本名をJaime Baço(ハイメ・バソ)といい、1411年頃にバレンシアで生まれ、同地で亡くなりました。彼の芸術様式は、フランコ=フランドル派とイタリア派の影響を強く受けており、特に繊細な表現と豊かな色彩で知られています。

ジャコマールは、アラゴン王アルフォンソ5世に仕え、王室の肖像画や宗教画を数多く制作しました。彼の作品は、国際ゴシック様式の特徴である優雅な人物描写、装飾的な細部、そして深い精神性を兼ね備えています。

Jacomart

LA TRINITÉ

La Trinité(三位一体)は、彼の晩年の傑作の一つです。

この作品は、聖父(父なる神)、聖子(イエス・キリスト)、聖霊(鳩の姿)が一体となって表現される「三位一体」というキリスト教の教義を主題としています。ジャコマールの作品らしく、繊細な筆致と豊かな色彩が特徴で、人物の表情や衣服のひだに至るまで細かく描き込まれています。

この絵は、フランドル絵画の影響を受けつつも、ジャコマール独自の柔らかな光の表現や、神秘的な雰囲気を醸し出す空間描写が際立っています。彼の国際ゴシック様式の特徴が色濃く表れており、特にスペイン・バレンシア地方のルネサンス初期美術を理解する上で重要な作品とされています。

Maître M. S. (1500頃活動)

Maître M. S.

L’Adoration des Mages (1506)

「L’Adoration des Mages(東方三博士の礼拝)」は、東方三博士が幼子イエスを礼拝する場面を描いています。」この作品はもともと三連祭壇画の一部でしたが、現在は中央パネルのみがリール美術館に所蔵されています。

Jérôme Bosch (1450-1516)

ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)は、フランドル地方(現在のオランダ)出身の画家で、中世末期からルネサンス初期にかけて活躍しました。スペインのフェリペ2世のお気に入りの画家でもありました。

彼の作品は、夢や幻覚のような、そしてしばしば不気味で奇妙なイメージで知られており、特に宗教的・道徳的な主題を寓意的に表現しました。

20世紀のシュルレアリスム運動の画家たちにも大きな影響を与えたとされています。

Jérôme Bosch LE CONCERT DANS L’ŒUF

LE CONCERT DANS L’ŒUF

「Le Concert dans l’Œuf(卵の中のコンサート)」は、残念ながらヒエロニムス・ボスの作品ではありません。ボスの追随者、あるいは彼の工房に属する画家によって描かれたとされています。ボスの作品と酷似した、幻想的で寓意に満ちた世界観が特徴です。

Lucas Cranach l’Ancien (1472-1553)

ルーカス・クラナッハ(父)は、ドイツ・ルネサンスの重要な画家、版画家です。彼はザクセン選帝侯の宮廷画家として、ヴィッテンベルクを中心に活動し、宗教改革の時代を生き、マルティン・ルターと親交を深めました。

Lucas Cranach l’Ancien LA DÉRISION DU CHRIST (1540)

LA DÉRISION DU CHRIST (1540)

「La Dérision du Christ」(キリストの嘲笑)は、イエス・キリストが十字架にかけられる直前に、兵士たちから嘲笑や暴行を受ける、受難の場面を描いています。

Maître de la Vie de Marie (1463-1495頃に活動)

Maître de la Vie de Marie(メートレ・ド・ラ・ヴィ・ド・マリー、聖母マリアの生涯の画家)は、15世紀後半のケルン派を代表する匿名の画家です。

彼は、ケルン大聖堂のために描かれた「聖母マリアの生涯」を描いた祭壇画にちなんで名付けられました。聖ウルスラ教会に描かれている作品も有名です。

Calvaire avec un donateur

Calvaire avec un donateur (1480)

「Calvaire avec un donateur」(寄進者とカルヴァリ)は、ゴルゴタの丘でのキリストの磔刑を描いています。十字架にかけられたキリストを中心に、聖母マリアやマグダラのマリア、使徒ヨハネが描かれ、画面全体が深い悲しみに包まれています。

Jean Bellegambe (1470-1534)

ジャン・ベルガンブは、フランドル地方出身の画家です。彼は「アラスの画家」としても知られ、特に宗教画や祭壇画の制作で名声を築きました。

TRIPTYQUE DU BAIN MYSTIQUE

TRIPTYQUE DU BAIN MYSTIQUE (1520)

「Triptyque du Bain Mystique」(神秘的な入浴の三連祭壇画)は、中央パネルには、天使たちが幼子イエスを抱え、神秘的な浴槽で清めているかのような光景が描かれています。これは、キリストの洗礼を象徴的に、そして神聖な儀式として描いたものと解釈されています。とてもユニークな主題になっています。

Triptyque de la Trinité de Marchiennes

Triptyque de la Trinité de Marchiennes (1520)

「マルシエンヌの三位一体三連祭壇画」は、キリスト教の最も重要な教義の一つである聖三位一体(父なる神、子なるイエス、聖霊)を主題としています。

この作品は、フランス北部のマルシエンヌ修道院の依頼で描かれました。

Maarten van Heemskerck (1498-1574)

マールテン・ファン・ヘームスケルクは、オランダ・ルネサンスの画家で、イタリアの芸術、特にローマの古代彫刻やラファエロの作品に深く影響を受けました。

Maarten van Heemskerck

COURSE DE TAUREAUX DANS LE COLISÉE (1552)

「Course de taureaux dans le Colisée」(コロッセオでの闘牛)」は、古代ローマの壮大な遺跡であるコロッセオの内部で、ヘームスケルクが生きた16世紀に行われていた闘牛が繰り広げられている、非常にユニークな光景を描いています。

Lambert Sustris (1515-1568)

ランベルト・スストリスは、オランダ出身の画家で、生涯のほとんどをイタリア、特にヴェネツィアで活動しました。彼は、北方ルネサンスの画家でありながら、イタリア・ルネサンスの影響を深く受けたことで知られています。

NOLI ME TANGERE

NOLI ME TANGERE (1548) 

「Noli me tangere」(我に触れるな)は、イエス・キリストが復活した後、最初にその姿を発見したマグダラのマリアに「我に触れるな」と語りかける場面を描いています。マグダラのマリアは、イエスを庭師と見間違えている設定で描かれています。

スストリスの師であるティツィアーノの影響を強く受けており、豊かな色彩と、光と影を巧みに利用した表現が特徴です。特に、キリストの白いローブが放つ神聖な輝きが印象的です。

Anthonie Blocklandt van Montfoort (1533-1583)

アントニエ・ファン・ブロックラント・ファン・モントフォールトは、オランダ・ルネサンスの画家で、イタリアのマニエリスム様式を北ヨーロッパに広めた重要な人物です。

Le Baptême du Christ Lille

Le Baptême du Christ Lille (1550 1580)

「Le Baptême du Christ」(キリストの洗礼)は、静かに洗礼を受けるイエスと洗礼者ヨハネが描かれています。マニエリスム様式の影響を強く受けており、人物の身体が細長く引き伸ばされ、優雅なポーズで描かれているのが特徴です。

Albert Jacobszoon

アルベール・ヤコブスゾーンについては、16世紀にオランダで活動していたとされる画家で、現在のところ詳しい伝記的情報は乏しく、作家としてもあまり知られていません。作品の作風や年代から判断して、北欧のマニエリスム芸術に属する作家として位置づけられています。

Albert Jacobszoon

La Cène (1552~1573)

「La Cène(最後の晩餐)」を描いています。

Lucas van Valckenborch (1535-1597)

ルーカス・ファン・ヴァルケンボルヒは、フランドル出身の画家で、特に壮大な風景画と季節を描いた風俗画で知られています。

彼は、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の宮廷画家としても活躍し、国際的な評価を得ました。その風景画は、北方美術における風景画の発展に貢献した重要な存在です。

Lucas van Valckenborch

La Moisson (1590年代)

「La Moisson」(収穫)は、夏の「収穫」の様子を描いた、ヴァルケンボルヒの代表的な風俗画の一つです。

Paul Bril (1554-1626)

パウル・ブリルは、フランドル出身の画家で、特にイタリアで風景画家として活躍しました。彼はローマで、弟のマテウス・ブリルと共に、風景画の発展に貢献しました。

彼は自然をそのまま描くのではなく、古典的な要素(古代の遺跡など)を取り入れ、調和の取れた理想的な風景を創造しました。これは、後の古典主義的風景画の発展に大きな影響を与えました。

Paul Bril

Le Naufrage de Jonas (1600)

「Le Naufrage de Jonas」(ヨナの難破)は、旧約聖書の「ヨナ書」に登場する預言者ヨナの物語を描いています。嵐の海で船が難破し、人々がヨナを海に投げ込む場面が描かれています。その後、ヨナは巨大な魚に飲み込まれることになります。

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まとめ:リールで心に残るアート体験を

いかがでしたか。

気になる画家や作品を見つけることが出来たでしょうか。

リール宮殿美術館の壮大なコレクションは、まさに時間の旅をさせてくれます。キリスト教の物語に詳しくなくても、遠近法の発展や、各画家の個性的な表現、そして絵具の質感といった「技術的な視点」から作品を眺めることで、新たな発見があるはずです。

絵画鑑賞に決まった楽しみ方はありません。この記事が、あなたがリールで素晴らしい作品たちと出会うための、ささやかな道しるべとなれば幸いです。

今回も最後までお読み頂きありがとうございました。

リール美術館に展示されている作品については、以下の記事で詳しく解説させて頂いております。

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