宗教画って、ちょっと難しそう…そう思っていませんか?でも、ご安心ください!今回の記事では、フランスの美しいナンシー美術館に所蔵されている、ルネサンス期の珠玉の作品たちを、気軽に楽しめるようにご紹介します。
ペルジーノ、レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子たち、タッデオ・ディ・バルトロ、ヨース・ファン・クレーフェ、ルーカス・ファン・レイデンといった画家たちは、まさに西洋絵画が華々しく開花し、その後の多様な芸術が発展する礎を築きました。この時代の流れをなんとなくでも知っておけば、きっと西洋絵画鑑賞が何倍も楽しくなるはずです。
私自身、ヨーロッパの美術館を巡る中で「オーディオガイドはいらないけれど、もう少し簡単な説明が欲しいな」と感じてこの記事を書き始めました。ナンシー美術館をこれから訪れる方、あるいは西洋絵画に少しでも興味がある方の参考になれば幸いです。さあ、一緒に時を超えた芸術の旅に出かけましょう!
- Taddeo di Bartolo (1363-1422)
- Perugino (1446-1523)
- Francesco de Tatti (1470-1532)
- Joos van Cleve (1485-1540)
- Wilhelm Stetter (1487-1552)
- Marinus van Reymerswale (1490-1546)
- Giovanni Antonio Sogliani (1492-1544)
- Lucas van Leyden (1494-1533)
- Giampietrino (1495-1549)
- Maître du Saint-Sang (1500?)
- Matthias Gerung (1500-1570)
- Jan Sanders van Hemessen (1500-1566)
- まとめ
Taddeo di Bartolo (1363-1422)
タッデオ・ディ・バルトロは、イタリアの初期ルネサンス期に活躍したシエナ派の画家です。
彼はシエナで生まれ、画業の多くを故郷シエナで過ごしましたが、ピサ、サン・ジミニャーノ、ペルージャなどイタリア各地でも活動しました。ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』にもその名が記されています。

Vierge à l’enfant (1396/67) 左側
Francesco Traini (1321-1365) Saint Paul (1344/45) 右側
《聖母子》(Vierge à l’enfant)は、キリスト教美術において最も広く描かれてきた主題の一つである、聖母マリアと幼子イエス・キリストを描いています。
フランチェスコ・トライーニ(Francesco Traini)は、14世紀イタリア、特にピサとボローニャで活動した画家です。《聖パウロ》(Saint Paul)は、おそらくピサのサンタ・カテリーナ教会のために制作された聖ドメニコの多翼祭壇画の一部、あるいはそれと同時代の別の多翼祭壇画の側面パネルとして描かれたと考えられます。
Perugino (1446-1523)
ペルジーノ(Perugino、本名ピエトロ・ヴァンヌッチ)は、イタリア盛期ルネサンス初期を代表する画家で、特にウンブリア派の主要人物として知られています。
彼の画風は、その優雅で調和のとれた構図、甘美な色彩、そして瞑想的で穏やかな雰囲気が特徴です。人物はしばしば理想化され、静かで端正な表情で描かれ、見る者に深い精神性と安らぎを与えます。
ペルジーノは、初期にはフィレンツェでピエロ・デラ・フランチェスカに師事したと考えられており、彼の作品に見られる空間の明晰さや光の表現にその影響が見られます。
ペルジーノとレオナルド・ダ・ヴィンチは、フィレンツェのアンドレア・デル・ヴェロッキオ(Andrea del Verrocchio)の工房で、ほぼ同時期に修行していました。
システィーナ礼拝堂やバチカン市国などの壁画を描いたことでも有名です。
彼は非常に成功した工房を運営し、特にルネサンスの巨匠ラファエロの師であったことでも有名です。ラファエロは初期の作品でペルジーノの様式を強く受け継ぎ、それをさらに発展させました。

Vierge à l’Enfant avec saint Jean-Baptiste et deux anges (1505)
《洗礼者聖ヨハネと二人の天使を伴う聖母子》(Vierge à l’Enfant avec saint Jean-Baptiste et deux anges)は、聖母マリアが幼子イエスを抱き、その傍らに幼い洗礼者聖ヨハネと二人の天使が描かれた場面を表現しています。この構図は、聖家族の親密な描写と、信仰の象徴的な意味を兼ね備えています。
Francesco de Tatti (1470-1532)
フランチェスコ・デ・タッティは、イタリアのルネサンス期の画家です。ヴァレーゼで生まれました。

Vierge à l’Enfant accompagnée par deux anges (1512)
《二人の天使を伴う聖母子》(Vierge à l’Enfant accompagnée par deux anges)は、聖母マリアと幼子イエス・キリストを描いたものです。画面には、聖母子を取り囲むように二人の天使が配されており、神聖な雰囲気を高めています。
Joos van Cleve (1485-1540)
ヨース・ファン・クレーフェは、16世紀前半にアントウェルペン(アントワープ)で活動したフランドルの主要な画家です。本名はヨース・ファン・デル・ベケですが、出身地であるクレーフェにちなんでこの通称で知られるようになりました。
彼は、当時のアントウェルペンで最も成功した画家の一人であり、大規模な工房を経営していました。

Le Mariage mystique de sainte Catherine (1514)
《聖カタリナの神秘の結婚》(Le Mariage mystique de sainte Catherine)は、キリスト教の聖人である聖カタリナ(アレクサンドリアの聖カタリナ)が、幼子イエスと神秘的に結婚する場面を描いたものです。これは、聖カタリナがキリストに霊的に献身する象徴的な出来事であり、中世からルネサンス期にかけて広く描かれた人気の高い主題です。
Wilhelm Stetter (1487-1552)
ヴィルヘルム・シュテッターは、16世紀のドイツ・ルネサンス期に活動した画家です。ストラスブールで生まれ、同地で亡くなりました。
シュテッターは、単なる画家ではなく、カトリックの司祭でもありました。1512年にバーゼルで叙階され、1509年から1510年頃にはストラスブールの聖ヨハネ騎士団に入団し、1522年にはその教団の管理人を務め、亡くなるまでその職にありました。彼の現存する作品の多くは、この教団のために制作されたと考えられています。

Wilhelm-stetter-la-decollation-de-saint-jean-baptiste (1515)
《洗礼者聖ヨハネの斬首》(Wilhelm-stetter-la-decollation-de-saint-jean-baptiste)は、新約聖書の物語から、洗礼者聖ヨハネがヘロデ王の命により斬首される場面を描いたものです。

Ecce Homo (1521) 左側
La Mise au tombeau (1536) 中央
L’Apparition du Christ à Marie-Madlene (1523) 右側
《エッケ・ホモ》(Ecce Homo)は、新約聖書の福音書に記されたキリストの受難の場面の一つ、「エッケ・ホモ(ラテン語で「見よ、この人だ」の意)」を描いています。これは、ローマ総督ピラトが、鞭打たれ茨の冠をかぶせられたイエス・キリストを群衆の前に引き出し、「見よ、この人だ」と叫び、キリストの処刑を求める群衆の意志を問うた瞬間のことです。
《キリストの埋葬》(La Mise au tombeau)は、イエス・キリストが十字架から降ろされた後、墓へと運ばれる場面を描いています。
《キリストのマリア・マグダレナへの出現》(L’Apparition du Christ à Marie-Madlene)は、イエス・キリストが復活した後に、最初に姿を現したとされるマリア・マグダレナに現れる場面を描いています。
Marinus van Reymerswale (1490-1546)
マリヌス・ファン・レイメルスワーレは、16世紀前半に活躍したオランダ(ネーデルラント)の画家です。彼は、ゼーラント州のレイメルスワーレで生まれ、アントウェルペンで修行を積んだ後、故郷のゼーラントで活動しました。

Les Compteurs d’argent
《両替商たち》(Les Compteurs d’argent)は、机に向かって金銭を数えたり、帳簿をつけたりしている徴税人や両替商の姿を描いています。これは、マリヌス・ファン・レイメルスワーレが最も得意とした風刺的なジャンル画の典型です。
Giovanni Antonio Sogliani (1492-1544)
ジョヴァンニ・アントニオ・ソリアーニは、イタリア盛期ルネサンス期に活躍した画家です。主にフィレンツェを拠点として活動しました。ロレンツォ・ディ・クレーディの工房で長年にわたって修行を積み、師の様式に忠実であったとされています。

Tobie conduit par l’ange (1515)
《天使に導かれるトビアス》(Tobie conduit par l’ange)は、旧約聖書外典の「トビト記」に登場するトビアスの旅の物語を描いています。盲目の父トビトの目を癒す薬草を求めて旅に出る息子トビアスが、実は大天使ラファエルである旅の道連れに導かれながら旅をするという、信仰と奇跡の物語です。
Lucas van Leyden (1494-1533)
ルーカス・ファン・レイデンは、16世紀のネーデルラント(現在のオランダ)を代表する画家であり、特に版画家として非常に高い評価を受けています。

La Passion du Christ
《キリストの受難》(La Passion du Christ)を描いています。
Giampietrino (1495-1549)
ジャンピエトリーノ(本名はおそらくジョヴァンニ・ピエトロ・リッツォーリ)は、イタリア盛期ルネサンス、特にレオナルド・ダ・ヴィンチのミラノの工房で活動した主要な弟子の一人です。

Christ au roseau
《茨の冠をかぶせられたキリスト》(Christ au roseau)は、イエス・キリストの受難の物語から、ローマ兵に嘲弄され、茨の冠をかぶせられ、王笏の代わりに葦の棒(roseau)を持たされた場面を描いています。
ダヴィンチの画風が色濃く反映されています。特に、スフマート(ぼかし技法)を用いた柔らかな光と影の表現、人物の肌の質感、そして深い瞑想に沈むようなキリストの表情に、影響が見られます。
Maître du Saint-Sang (1500?)
サン=サン(聖なる血)の画家(Maître du Saint-Sang)は、16世紀前半(活動時期:1510年頃 – 1520年代半ば)にフランドル、特にブルージュで活動した匿名の画家、または画家集団に与えられた通称です。彼の本名や詳しい経歴は不明です。

Déposition de croix avec Joseph d’Arimathie
アリマタヤのヨセフを伴う十字架降架(Déposition de croix avec Joseph d’Arimathie)は、イエス・キリストが磔刑に処された後、十字架から降ろされる場面を描いています。特に「アリマタヤのヨセフ」が主題名に含まれているように、キリストの遺体を降ろし、埋葬の準備をするヨセフが重要な役割を担って描かれています。これは、キリストの受難の物語における、最も感情的で悲劇的な瞬間のひとつです。
Matthias Gerung (1500-1570)
マティアス・ゲルングは、16世紀のドイツ・ルネサンス期に活躍した画家であり、特に版画家、そして細密画家(彩飾写本画家)としても知られています。彼はネルトリンゲンで生まれ、ラウインゲンを拠点に活動しました。
彼の師はハンス・シャイフェラインであったと考えられています。

L’enlevement d’Helene (1530/31)
《ヘレネの略奪》(L’enlèvement d’Hélène)は、ギリシア神話の有名なエピソード、パリスによるトロイア戦争の発端となったスパルタ王妃ヘレネの誘拐を描いています。
Jan Sanders van Hemessen (1500-1566)
ヤン・サンデルス・ファン・ヘメッセンは、フランドル・ルネサンスの主要な画家で、イタリア・ルネサンス絵画に影響を受けた「ロマニスト」と呼ばれるフランドルの画家グループの一員です。
彼はアントウェルペンで活動し、1524年にはアントウェルペン画家組合のマスターとなり、1548年には組合長を務めました。風俗画や宗教画、肖像画を得意とし、力強い構図や写実的な表現が特徴です。彼の娘であるカタリナ・ファン・ヘメッセンも画家として知られています。

Le Christ chassant les marchands du Temple (1556)
「神殿から商人を追い出すキリスト」(Le Christ chassant les marchands du Temple)は、イエスがエルサレムの神殿で商売を行う者たちや両替商を鞭で追い出すという新約聖書の有名なエピソードを描いています。ヘメッセンは、この場面を当時のアントウェルペンの大聖堂を思わせるような壮大な空間に置き換えて表現しています。
特筆すべきは、当時の宗教改革の背景にあるカトリック教会とプロテスタントの対立がこの作品に反映されている点です。イエスが商人たちを厳しく罰する姿は、プロテスタントに対抗するカトリック教会の積極的な行動の寓意として解釈されることがあります。この作品が制作された1556年は、イエズス会がネーデルラントに設立され、カトリックの先鋒となった年でもあり、そのメッセージが込められていると考えられています。
まとめ
ナンシー美術館に所蔵されている、ルネサンス期の魅力的な作品たちをご紹介しました。一人ひとりの画家の生涯や作品背景を深く掘り下げると膨大な情報量になってしまうため、今回はそれぞれの作品のポイントをかいつまんでお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?
もしかしたら、最初は宗教画に苦手意識がある方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、たくさんの美術館を訪れて様々な作品に触れていくうちに、きっとその奥深さや美しさに気づき、自然と楽しめるようになるはずです。
今回ご紹介した画家たちは、皆、その後の美術史に多大な影響を与えた重要な存在です。もし少しでもご興味を持たれたら、ぜひご自身でさらに詳しく調べてみてください。そして、ぜひ実際に様々な美術館を訪れて、それぞれの作品を自分の目で見て、比べて鑑賞する体験をしてみてください。きっと新たな発見と感動があるはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!この情報が、皆さんの芸術鑑賞の一助となれば嬉しいです。
ナンシー美術館の概要についてはこちらで詳しくご紹介させて頂いております。
マニエリスム・バロックの作品はこちらで詳しくご紹介させて頂いております。
- ナンシー美術館で「知られざる巨匠たち」を発見!マニエリスムの魅惑的な世界を巡る旅
- 17世紀バロックの輝き:ナンシー美術館で出会う巨匠たちの光と影
- 壮麗なるバロックの調べ:ナンシー美術館で巡る17世紀後半の輝き
地下にあるドームコレクションはこちらで詳しくご紹介させて頂いております。
コメント