リール宮殿美術館は、フランス北部に位置しながら、17世紀ヨーロッパの美術史を体系的に理解できる、貴重なコレクションを誇る美術館です。
この記事では、ヤコブ・ヨルダーンスやアンソニー・ヴァン・ダイクといったフランドルの巨匠たちの作品、ヤン・ファン・ホーイェンらオランダ黄金時代の画家たちの風景画、そしてニコラ・ミニャールやノエル・コワペルといったフランス古典主義の画家たちの作品まで、見逃せない傑作の数々を詳しくご紹介します。
作品に込められた光と影の表現、そして描かれた物語の背景を知ることで、絵画鑑賞は単なる「見る」行為から、「感じる」体験へと変わります。さあ、リール宮殿美術館で、17世紀の芸術家たちの息吹を感じる旅に出かけましょう。
- Gerrit van Honthorst (1592-1656)
- Jacob Jordaens (1593-1678)
- Jan Van Goyen (1596-1656)
- Antoine van Dyck (1599-1641)
- Pieter van Mol (1599-1650)
- Jan Cossiers (1600-1671)
- Pieter van Avont (1600-1652)
- Jan Boeckhorst (1604-1668)
- Nicolas Mignard (1606-1668)
- Erasmus Quellinus II (1607-1678)
- Thomas Willeboirts Bosschaert (1614-1654)
- Jeremias Mittendorff (1616-1647 活動期)
- Theodoor Boeyermans (1620-1678)
- Pieter Boel (1622-1674)
- Hieronymus Janssens (1624-1693)
- Carlo Maratta (1625-1713)
- Noël Coypel (1628-1707)
- まとめ:バロック絵画をより深く味わうために
Gerrit van Honthorst (1592-1656)
ヘラルト・ファン・ホントホルストは、17世紀オランダの画家で、特に夜の場面をろうそくやランプの光でドラマチックに照らす作品で知られています。彼はユトレヒト・カラヴァッジョ派の主要な人物の一人です。
彼はアブラハム・ブルーマールトに師事した後、1616年頃にイタリアへ渡り、そこでミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの影響を強く受けました。カラヴァッジョのテネブリズム(明暗法)を巧みに使いこなし、夜の場面を描くことに長けていたことから、「夜のヘラルト(Gherardo delle Notti)」というあだ名で知られるようになりました。

LE TRIOMPHE DE SILÈNE (1623-30)
LE TRIOMPHE DE SILÈNE (シレノスの勝利)は、ギリシャ神話に登場するシレノス(酒神ディオニュソスの養父であり、賢者で酒好きのサテュロス)の勝利を祝う賑やかな行列を描いています。
Jacob Jordaens (1593-1678)
ヤーコブ・ヨルダーンスは、フランドル・バロック期を代表する画家で、ピーテル・パウル・ルーベンス、アンソニー・ヴァン・ダイクと共に「アントワープの三大巨匠」の一人に数えられます。彼は、力強く生き生きとした人物描写と、温かみのある色彩を特徴とする作品を数多く残しました。
彼は、父親の友人でもあったアダム・ファン・ノールトに師事しました。ファン・ノールトの工房では、ルーベンスも短期間学んでいます。

LA TENTATION DE SAINTE MADELEINE (1620)
LA TENTATION DE SAINTE MADELEINE (聖マグダラのマリアの誘惑)は、キリストの弟子である聖マグダラのマリアが、荒野で隠遁生活を送る中で悪魔から様々な誘惑を受ける場面を描いています。
画面中央には、簡素な衣服をまとい、十字架を抱えて祈る聖マグダラのマリアが描かれています。彼女の周りには、金貨や宝石、豪華な食べ物や酒、そして美しい女性の姿など、世俗的な欲望を象徴するものが、悪魔によって差し出されています。
Jan Van Goyen (1596-1656)
ヤン・ファン・ホーイェンは、17世紀オランダ黄金時代の風景画家です。彼は、ハーグ派と呼ばれる画家たちの中心人物であり、特にオランダの広大な風景を表現するトーン・ペインティング(Monochrome painting)の確立に大きく貢献しました。膨大な数の作品を描いたことでも知られています。
トーン・ペインティングとは、風景を単色(主に茶色、灰色、緑がかった色)で統一し、空気感や奥行きを表現する手法。この控えめな色彩は、雨上がりの空や水辺の湿った空気など、オランダ特有の天候や雰囲気を繊細に捉えるのに役立っています。

LES PATINEURS (1625)
LES PATINEURS(スケートをする人々)は、氷結した川や運河でスケートやソリ遊びを楽しむ、オランダの人々の冬の日常風景を描いています。
作品はユトレヒトのペレクッセン門(Pellekussenpoort)の下でアイススケートをしている様子を描いています。
Antoine van Dyck (1599-1641)
アンソニー・ヴァン・ダイクは、フランドル・バロック期を代表する画家で、特に洗練された貴族的な肖像画で知られています。彼は、師であるピーテル・パウル・ルーベンスの最大の協力者であり、またライバルでもありました。
若くして天才的な才能を示し、1618年頃にはアントワープの画家組合の親方となり、その後すぐにルーベンスの工房で助手として働きました。ルーベンスの作品の制作を助け、彼の様式を習得しました。
1621年から1627年までイタリアに滞在し、ティツィアーノやヴェネツィア派の画家たちの色彩と優雅な筆致から大きな影響を受けました。この時期に、彼のトレードマークとなる、優雅で気品ある肖像画のスタイルが確立されました。
1632年にイギリス国王チャールズ1世に招かれ、宮廷画家となりました。彼の肖像画はイギリス貴族の間で大流行し、イギリスの肖像画の様式を根本的に変えました。

Le Christ en Croix (1630)
「Le Christ en Croix」 (十字架の上のキリスト)は、キリストが十字架にかけられた磔刑の場面を描いています。この作品は、ヴァン・ダイクがイタリアの巨匠カラヴァッジョから影響を受けて確立した、ドラマチックなスタイルをよく示しています。
画面全体は暗く、嵐のような空が背景に広がっています。その中で、キリストの肉体が強い光を浴び、際立って浮かび上がっています。このテネブリズム(明暗法)によって、見る者はキリストの苦しみと神聖さに焦点を合わせるように導かれます。
この絵の最も印象的な特徴の一つは、聖母マリアや使徒ヨハネといった他の人物が一切描かれていないことです。十字架上のキリストが単独で描かれることで、その孤独と犠牲がより強調され、崇高な雰囲気を生み出しています。

Le miracle de la mule ou Miracle de saint Antoine de Padoue à Toulouse (1627-30)
「ロバの奇跡」は、13世紀の聖人パドヴァのアントニオ(聖アントニウス)にまつわる伝説的な奇跡を描いています。
この物語は、トゥールーズに住む異端者(カタリ派)が、聖アントニオの聖体論(キリストの体がパンとぶどう酒に宿るという教え)を否定したことから始まります。異端者は、もし聖アントニオの言うことが真実なら、3日間何も与えなかったロバが、飼料よりも聖体(キリストの体)を選んで跪くはずだと挑戦しました。
Pieter van Mol (1599-1650)
ピーテル・ファン・モルは、フランドル・バロック期の画家で、主に宗教画と肖像画で知られています。彼はアントワープで修業を積み、その後パリを拠点に活躍しました。ルーベンスの様式をフランスに紹介した画家の一人であります。
ファン・モルは、ゲース・マースに師事しました。彼の初期の作品は、ピーテル・パウル・ルーベンスやアンソニー・ヴァン・ダイクといったフランドルの巨匠たちの影響を強く受けており、ダイナミックな構図と力強い人物描写を特徴としています。

L’ANNONCIATION (1648)
L’ANNONCIATION (受胎告知)は、大天使ガブリエルが聖母マリアのもとに現れ、イエス・キリストを身ごもることを告げるという、キリスト教の最も重要な場面の一つである受胎告知を描いています。
画面は、劇的な光と影のコントラストによって満たされています。画面上部から差し込む強い光が、大天使ガブリエルと聖母マリアを照らし、神聖で神秘的な雰囲気を生み出しています。
画面中央の聖母マリアは、ガブリエルの突然の訪問に驚きながらも、敬虔な態度でひざまずいています。大天使ガブリエルは、力強く、そして優雅な姿で描かれ、神の言葉を伝える威厳と荘厳さが表現されています。
Jan Cossiers (1600-1671)
ヤン・コシエールは、フランドル・バロック期の画家で、ピーテル・パウル・ルーベンスの重要な協力者の一人です。彼は、キャリアを通じて作風を大きく変化させたことで知られています。
彼は当初、イタリアの画家カラヴァッジョから影響を受け、カラヴァッジョ様式の風俗画を多く描きました。ルーベンスの工房で働いた後は、ルーベンス様式の壮大で色彩豊かな表現へと作風を移しました。晩年には肖像画でも才能を発揮し、フランドル絵画における重要な色彩画家と見なされています。

Saint Nicolas sauvant les captifs (1660) 下
Saint Nicolas sauvant les captifs (捕虜を救う聖ニコラウス) は、聖ニコラウスが、処刑されそうになっていた3人の若い捕虜を救う場面を描いています。伝説では、彼らは身代金が払えなかったために処刑されることになっていました。ニコラウスが処刑場に現れると、彼が祈りを捧げることで、処刑人の剣が奇跡的に止まり、3人の命が救われたとされています。
この作品は、コシエールがルーベンスの様式を学んだ後の、成熟した時期のものです。ドラマチックな構図、力強い人物像、そして感情豊かな表情が特徴的です。特に、処刑人の緊張した表情と、捕虜たちの安堵の表情の対比が印象的です。
Pieter van Avont (1600-1652)
ピーテル・ファン・アーヴォントは、フランドル・バロック期の画家で、特に風景画や物語の場面に、小さな人物を描き加えることで知られています。彼は、他の多くの画家たちと共同で作品を制作することで、キャリアを築きました。
彼は、ヤン・ファン・コーレン、ヤン・ブリューゲル1世、ダフィット・テニールス2世といった、風景画を得意とする画家たちの作品に、人物や動物を描き加えることがよくありました。この分業システムは、当時のアントワープの画家たちによく見られたものです。

Repos de la Sainte Famille (1640)
Repos de la Sainte Famille(聖家族の休息)は、ピーテル・ファン・アーヴォントとヤン・ファン・ケッセル1世の共作と言われています。
作品は、イエス・キリストの家族がヘロデ王の迫害から逃れるためにエジプトへ向かう旅の途中、休憩している様子を描いた、キリスト教美術の伝統的な主題です。
展示カードには?マークがあったので、もしかしたら作者が違うかもしれません。
Jan Boeckhorst (1604-1668)
ヤン・ブックホルストは、フランドル・バロック期の画家で、ピーテル・パウル・ルーベンスの重要な協力者の一人です。彼は、特に大規模な祭壇画や歴史画、肖像画で知られています。
ブックホルストは、ヤコブ・ヨルダーンスのもとで学び、その後ルーベンスの工房で働きました。ルーベンスの死後、ルーベンスの未完成作品を完成させる重要な役割を担うなど、彼の様式を継承しました。
風景画家のヤン・ワイルデンスや動物画家のフランス・スナイデルスと共同で作品を制作していました。

Le Martyre de saint Maurice et de ses compagnons (1661)
「聖マウリチウスとその仲間たちの殉教」は、3世紀にローマ皇帝マクシミアヌスの命令によって殉教した、キリスト教徒の兵士聖マウリチウスとテーベ軍団の仲間たちの悲劇的な物語を描いています。彼らは、異教の神を崇拝することを拒否したため、処刑されました。
画面は、激しい動きとドラマに満ちています。聖マウリチウスは画面中央で、十字架を掲げて信仰を力強く示しており、その周りで兵士たちが処刑され、倒れ込んでいます。ブックホルストは、ルーベンス様式から学んだ力強い人物像と、斜めの構図を駆使することで、場面の緊張感と悲劇性を高めています。
Nicolas Mignard (1606-1668)
ニコラ・ミニャールは、17世紀フランスの画家で、特に宗教画、神話画、肖像画で知られています。彼は、同じく著名な画家であった弟のピエール・ミニャールに比べて、より穏やかで古典的な作風を特徴としています。
ミニャールは主に南フランスのアヴィニョンを拠点に活動しました。彼はアヴィニョンで最も重要な画家の一人となり、多くの宗教画や肖像画の依頼を受けました。

LE JUGEMENT DE MIDAS (1667)
LE JUGEMENT DE MIDAS (ミダースの審判)は、ギリシャ神話のミダース王の審判という物語を描いています。
楽の神アポロンと、牧神パン(あるいはサテュロスのマルシュアース)が音楽の腕前を競い合ったとき、ミダース王は審判役を務めました。しかし、彼はパンの笛の音をアポロンのリュラの音よりも優れていると判断してしまいます。
作品では、その不公平な判断を下したミダース王に対し、アポロンが罰を与える瞬間を描いています。画面左のアポロンは、怒りに満ちた表情でミダースに手を向け、その結果、ミダース王の両耳がロバの耳に変わるという運命をたどります。ミダース王は、ロバの耳が生えてきたことに驚き、頭を覆い隠そうとしています。
Erasmus Quellinus II (1607-1678)
エラスムス・クエリヌス2世は、フランドル・バロック期の画家で、ピーテル・パウル・ルーベンスの工房で最も重要な協力者の一人でした。彼は、ルーベンスの様式を継承し、大規模な宗教画、歴史画、肖像画を多く制作しました。ルーベンス亡き後、オランダを代表する画家となりました。

La Résurrection du Christ (1650)
La Résurrection du Christ (キリストの復活)は、タイトル通り、キリスト教の最も重要な出来事の一つであるキリストの復活を描いています。
画面中央には、光を放ちながら荘厳な姿で墓から立ち上がるキリストが描かれています。その足元では、番兵として配置されていたローマ兵たちが、この超自然的な出来事に驚き、恐怖におののき、倒れ伏しています。
復活したキリストは、内側から発するような神聖な光に包まれており、周囲の闇との強いコントラストを生み出しています。この光は、キリストの神性を象徴するとともに、作品全体に感動的な雰囲気を与えています。
Thomas Willeboirts Bosschaert (1614-1654)
トーマス・ヴィレボイルツ・ボスハールトは、フランドル・バロック期の画家で、特に宗教画、神話画、肖像画で知られています。彼は、アントワープで高い評価を得ていました。
彼はゲラルト・セーゲルスに師事しました。セーゲルスはカラヴァッジョの影響を強く受けていたため、初期のヴィレボイルツの作品には、明暗の強いコントラストが見られます。その後、彼はアンソニー・ヴァン・ダイクと協力関係を築きました。ヴァン・ダイクの優雅で洗練された様式から大きな影響を受け、特に人物の描写や色彩感覚にそれが現れています。

Le couronnement de la Vierge (1650)
Le couronnement de la Vierge(聖母戴冠)は、聖母マリアが死後、天国で三位一体(父なる神、子なるキリスト、聖霊)によって天の女王として戴冠されるという、カトリック教会の重要な教義の一つを描いています。
人物の洗練された身のこなし、柔らかく流れるような筆致、そして繊細で豊かな色彩は、ヴァン・ダイクの様式を思わせます。
Jeremias Mittendorff (1616-1647 活動期)
ヤレミアス・ミッテンドルフは、17世紀初頭に活躍したフランドルの宗教画家で、イープル(Ypres)とリール(Lille)で特に1620年代から1630年代にかけて活動していました

Le Martyre de saint Pierre de Vérone (1629)
Le Martyre de saint Pierre de Vérone (聖ペトロ・デ・ヴェローネの殉教)は、ドミニコ会の聖人 聖ペトロ・デ・ヴェローネ(異端に対抗して布教を行い、暗殺された聖人)の殉教場面を描いています。
当初はパリのドミニコ会修道院のために制作された作品で、後にリール美術館が左右のパネルも収蔵し、現在は完全な三連祭壇画として展示されています。
Theodoor Boeyermans (1620-1678)
テオドール・ボイエルマンスは、フランドル・バロック期の画家で、主に宗教画や歴史画で知られています。彼は、同時代の著名な画家たちの影響を受けながら、独自の穏やかで洗練されたスタイルを確立しました。
ボイエルマンスは、アントワープでヤン・ファン・デ・ルンに師事しました。彼の作品は、師の作風に加えて、ルーベンスのダイナミックな構図と、ヴァン・ダイクの優雅な人物描写から大きな影響を受けています。

L’Extase de Sainte Rosalie de Palerme (1670)
L’Extase de Sainte Rosalie de Palerme (パレルモの聖ロザリアの法悦)は、12世紀にシチリアで隠遁生活を送った聖人、パレルモの聖ロザリアが、祈りの中で神との一体感を味わう「法悦」の瞬間を描いています。
この作品では、ヴァン・ダイクから学んだ優雅な人物描写と洗練された色彩を示しています。聖ロザリアの衣服の柔らかなひだや、天使たちの繊細な姿は、彼の洗練された筆致をよく表しています。
Pieter Boel (1622-1674)
ピーテル・ボールは、フランドル・バロック期の画家で、特に静物画、動物画、狩猟画の分野で知られています。彼は、自然界の動植物を非常に写実的かつ精緻に描く才能を持っていました。
彼はフランドル・バロックの中心地であるアントワープで、ルーベンスの工房で働いていたヤーコブ・ヨルダーンスやフランス・スナイデルスから影響を受けました。特にスナイデルスからは、動的な構図と力強い表現を学びました。

ALLÉGORIE DES VANITÉS DU MONDE (1663)
ALLÉGORIE DES VANITÉS DU MONDE (この世の虚栄の寓意)は、17世紀のフランドル絵画で広く流行した「ヴァニタス(Vanitas)」という主題を扱っています。これは、現世の富や快楽、名声といったものが、いかに虚しく、儚いものであるかという人生の教訓を象徴的に描いたものです。
Hieronymus Janssens (1624-1693)
ヒエロニムス・ヤンセンスは、フランドル・バロック期の画家で、特に舞踏会や豪華な宴会、ギャラリーの内部といった風俗画で知られています。彼は、優雅で洗練された社交界の様子を好んで描いたため、「舞踏会の画家」としても知られています。

Bal sur la terrasse d’un palais (1658)
Bal sur la terrasse d’un palais (宮殿のテラスでの舞踏会)は、豪華な宮殿のテラスで繰り広げられる、華やかな舞踏会(あるいは祝宴)の様子を描いています。
Carlo Maratta (1625-1713)
カルロ・マラッタは、17世紀から18世紀にかけて活動したイタリアの画家です。彼は、ローマで最も重要な芸術家の一人となり、古典主義とバロック様式を融合させた独自のスタイルを確立しました。
マラッタは、古典主義の巨匠であるニコラ・プッサンやアンニーバレ・カッラッチから強い影響を受けました。

L’empereur Auguste ordonne de fermer les portes du temple de Janus ou La Paix d’Auguste (1660)
「アウグストゥス帝、ヤヌス神殿の門を閉める、またはアウグストゥスの平和」は、歴史的出来事と宗教的寓意を組み合わせた複雑な主題を描いています。
画面中央には、ローマ皇帝アウグストゥスが、平和を象徴するヤヌス神殿の門を閉じるよう命じている様子が描かれています。ヤヌス神殿の門は、戦争中に開かれ、平和な時に閉じられるという習慣がありました。この出来事は、紀元前29年にアウグストゥスがローマの長い内乱を終わらせ、「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」の時代を始めたことを象徴しています。
Noël Coypel (1628-1707)
ノエル・コワペルは、17世紀から18世紀にかけて活躍したフランスの画家で、特に宗教画や歴史画で知られています。彼は、厳格な古典主義様式を守り、フランス王立アカデミーの要職も歴任した、権威ある存在でした。
コワペルは、ニコラ・プッサンやシャルル・ルブランといったフランス古典主義の巨匠たちの影響を強く受けていました。彼の作品は、明確でバランスの取れた構図、英雄的な人物像、そして落ち着いた色彩を特徴としています。
また、彼は、ヴェルサイユ宮殿やアンヴァリッド(廃兵院)などの大規模な王室建築の装飾画も手掛けました。彼の描く神話や寓意の場面は、荘厳で威厳に満ちています。

HERCULE COMBATTANT ACHELOÜS (1667-1670)
HERCULE COMBATTANT ACHELOÜS (アケロオスと戦うヘラクレス)は、ギリシャ神話の英雄ヘラクレスと、姿を変えることができる川の神アケロオスの戦いを描いています。
アケロオスとヘラクレスは、オイネウス王の娘デイアネイラを巡って争いました。アケロオスは、ヘラクレスとの戦いの最中に、蛇や雄牛に変身しました。絵画に描かれているのは、アケロオスが雄牛の姿になった瞬間です。ヘラクレスは、その角をねじ曲げて引きちぎり、アケロオスを打ち負かしました。
ヘラクレスの生涯が描かれた作品で、本来は4枚で1セットでした。『アケロオスと戦うヘラクレス』、『ディオメデスの馬を捕まえるヘラクレス』、『カクスと戦うヘラクレス』、『ヘスペリデスの園で竜と戦うヘラクレス』。
まとめ:バロック絵画をより深く味わうために
リール宮殿美術館のバロックコレクションは、それぞれの画家が異なるスタイルで、感情、信仰、そして人間の虚栄心をどのように表現したかを示しています。
ファン・ホントホルストの作品から夜のドラマを感じ取ったり、ヴァン・ダイクの作品からキリストの神聖な孤独を読み取ったりと、鑑賞の楽しみ方は無限に広がります。
この記事が、あなたのリール宮殿美術館での体験をより豊かなものにし、バロック美術の奥深い世界を再発見するきっかけとなれば幸いです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
リール美術館に展示されている作品については、以下の記事で詳しく解説させて頂いております。
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