18世紀後半から19世紀にかけて、ヨーロッパ各地でロマン主義が花開きました。
ドイツでも、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒやナザレ派といった画家たちが、独自のロマン主義を展開しました。
この記事では、ドイツ・ロマン主義の特徴、時代背景、そして代表的な画家たちについて解説します。
ドイツ・ロマン主義とは?:風景画と精神性、内面へのまなざし
ドイツロマン主義
ドイツロマン主義の画家は、「カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(Caspar David Friedrich)」が国際的に最も有名です。
フリードリヒは主に風景画を描いていました。
独特の雰囲気がある素晴らしい作品が多いです。
また、20世紀になって「フィリップ・オットー・ルンゲ(Philipp Otto Runge)」も脚光を浴びるようになりました。
素晴らしい作品はもとより、ゲーテと親交があり、色彩の球体論を発表したことで高く評価されています。
活動期間
18世紀後半から19世紀中ごろまで。
ドイツ・ロマン主義の特徴:内面、自然、そして精神性
- 内面へのまなざし:
- 外的な現実よりも、人間の内面や感情を重視しました。
- 自然への畏敬:
- 自然の力強さや崇高さを描き、人間の存在の小ささを表現しました。
- 精神性の追求:
- 宗教や哲学に関心を寄せ、精神的なテーマを扱った作品を制作しました。
- 象徴的な表現:
- 風景や人物に象徴的な意味を込め、観る人の想像力を刺激しました。
- 中世への憧憬:
- 中世の精神性や芸術に憧れ、ゴシック様式や宗教画を模範としました。
ナザレ派とは
ナザレ派
1809年、ウィーンアカデミーの学生6人が「聖ルカ兄弟団」を設立します。
新古典主義、アカデミズムに反する美術史上、初めての運動と言われています。
精神的な価値を具現化する美術の追及を求め、中世後期と、初期ルネサンスの芸術家にインスピレーションを求めていました。
(個人の感情を大切にすることが、ロマン主義と合致しています。)
1810年、グループの4人がローマへ移り、廃墟となっていた、聖イシドロ修道院で生活をするようになります。
修道院では、中世の修道士的な生活を送っていたために、ローマの人々から、その風貌などを揶揄されて、「ナザレ派」と呼ばれるようになりました。
ナザレ派とは他称であり、自身たちはあくまでも聖ルカ兄弟団と名乗っていました。
幾つかのフレスコ画などを手がけましたが、1930年までには、ほとんどの画家たちがドイツに帰国してしまいました。
(ヨーハン・フリードリヒ・オーヴァーベック、一人だけが生涯をローマで過ごします)
反アカデミズムで始まった運動も、参加者の多くが帰国後に、アカデミーの教師になっています。
出典:ウィキペディア Nazarene movement
活動期間
1809年から1830年頃まで。
ドイツ・ロマン主義の時代背景:ナポレオン戦争とドイツ統一運動
- ナポレオン戦争:
- ナポレオン戦争は、ドイツ各地に混乱と動揺をもたらし、人々のナショナリズムを高めました。
- ドイツ連邦の成立:
- 1815年にドイツ連邦が成立し、ドイツ統一運動が始まりました。
- 精神的な高まり:
- ドイツ・ロマン主義は、ナポレオン戦争後の精神的な高まりと結びつき、ドイツ人のアイデンティティを表現する手段となりました。
年表
1789年、フランス革命
1806年~1807年、第四次対仏大同盟(ナポレオンによる侵攻)
1806年~1813年、ライン同盟
1809年、聖ルカ兄弟団設立
1813年、ライプツィヒの戦い
1814年、ウィーン会議
1815年、ドイツ連邦設立
1848年、ドイツ革命
代表画家
ホセ・ルザン(José Luzán, 1710-1785)
- スペイン・バロック期の画家。
- ゴヤの師であり、アラゴンの画家として宗教画や肖像画を制作しました。
- 写実的でアカデミックな作風で知られています。
フランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco Jose de Goya y Lucientes, 1746-1828)
- スペインの画家。
- ロマン主義の画家として知られ、宮廷画家として活躍しました。
- 初期には明るく華やかな作品を描きましたが、晩年は戦争や社会の暗部を描いた作品を多く残しました。
- 代表作:
- 「カルロス4世の家族」
- 「裸のマハ」
- 「着衣のマハ」
- 「我が子を食らうサトゥルヌス」
クリスチャン・オーガスト・ローレンツェン(Christian August Lorentzen, 1749-1828)
- 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したデンマークの画家。
- 歴史画や風俗画を多く手がけ、デンマーク王立美術院の教授も務めました。
イェンス・ジュエル (Jens Juel, 1745-1802)
- 18世紀デンマークの画家。
- デンマーク王室の宮廷画家として活躍し、多くの肖像画を描きました。
- 代表作:「詩人バッセンの肖像」
カスパー・ダヴィド・フリードリヒ(Caspar David Friedrich, 1774-1840)
- ドイツ・ロマン主義を代表する画家。
- 宗教的、象徴的な意味合いを持つ風景画を多く残し、見る人に内省を促すような作品を描きました。
- 代表作:「リューゲンの白亜の崖」「氷海」
フィリップ・オットー・ルンゲ(Philipp Otto Runge, 1777-1810)
- ドイツ・ロマン主義の画家。
- 神秘主義的な思想を背景に、象徴的な意味合いを持つ風景画や肖像画を描きました。
- 色彩理論にも関心を持ち、独自の色彩体系を考案しました。
- 代表作:「ヒュルゼンベクの子供たち」
ヨハン・クリスティアン・ダール(Johan Christian Dahl, 1788-1857)
- ノルウェーの画家。
- ドイツ・ロマン主義の影響を受け、ノルウェーの自然を描いた風景画で知られています。
- カスパー・ダヴィド・フリードリヒと親交が深く、その影響を受けました。
- 代表作:「ベルゲンの眺め」
クリストファー・ヴィルヘルム・エッカースベルグ(Christoffer Wilhelm Eckersberg, 1783-1853)
- デンマークの画家。
- デンマーク王立美術院の教授を務め、デンマーク絵画の発展に貢献しました。
- 風景画や肖像画を多く手がけ、写実的な作風で知られています。
- 代表作:「ローマのコロッセオ内部の眺め」
フランツ・プフォル(Franz Pforr, 1788-1812)
- ナザレ派の創設メンバーの一人。
- 中世ドイツの画家を理想とし、宗教画や歴史画を制作しました。
- 早世のため作品数は少ないですが、ナザレ派の理念を体現した画家として高く評価されています。
- 代表作:「聖ゲオルギウスとドラゴン」
ヨーハン・フリードリヒ・オーヴァーベック (Johann Friedrich Overbeck, 1789-1869)
- ナザレ派の中心的画家。
- 宗教画を多く手がけ、イタリアで活動しました。
- ナザレ派の理念を広め、ヨーロッパ各地の画家に影響を与えました。
- 代表作:「イタリアとドイツの擬人化」
ヨハン・コンラート・ホッティンガー (Johann Konrad HOTTINGER, 1788-1828)
- スイスの画家。
- ナザレ派のメンバーとして宗教画や肖像画を制作しました。
ルートヴィヒ・フォーゲル(Ludwig Vogel, 1788-1879)
- スイスの画家。
- ナザレ派のメンバーとして宗教画や風俗画を制作しました。
ジョセフ・ウィンターガースト (Josef Wintergerst, 1783-1867)
- ドイツの画家。
- ナザレ派のメンバーとして宗教画を制作しました。
ヨゼフ・ヨハン・ズッター (Joseph Johann Sutter, 1781-1866)
- オーストリアの画家。
- ナザレ派のメンバーとして宗教画を制作しました。
ナザレ派の画家たちは、中世の芸術に回帰することで、当時のアカデミー絵画の形式主義を批判し、精神性を重視した作品を制作しました。彼らの活動は、後のロマン主義や象徴主義の画家たちに影響を与えました。
フスタフ・ワッペルス(Gustaf Wappers, 1803-1874)
- 19世紀ベルギーの画家。
- ロマン主義の画家として知られ、歴史画や肖像画を多く手がけました。
- 1830年のベルギー独立革命を題材にした作品で有名です。
- 代表作:「ベルギー独立革命の一場面」
ヤコブ・ヤコブス(Jacob Jacobs, 1812-1879)
- 19世紀ベルギーの画家。
- ロマン主義の風景画家として知られ、オリエンタルな風景画や海洋画を多く手がけました。
エミール・クラウス(Emile Claus, 1849-1924)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したベルギーの画家。
- 印象派の画家として知られ、光と色彩の表現に優れた風景画を多く残しました。
- 代表作:「太陽の川」
※ 分類が違う場合もあります。
ロマン主義、ナザレ派以外の画家が多く含まれています。
カタカナ表記に関して実際の発音と異なる場合もあります。
人物相関図

★ご利用の注意点★
上の代表画家の相関図です。
青い矢印は師弟関係を表していますが、実際はその関係がはっきりしていなかったり、ワークショップで働いたことがあるだけであったりします。
情報は英語版、フランス語版ウィキペディアを参考に製作しています。
まとめ
ドイツ・ロマン主義は、風景画を中心に、人間の内面や精神性を表現することを追求しました。
フリードリヒやナザレ派の画家たちは、ドイツ人のアイデンティティを表現し、後の芸術に大きな影響を与えました。
ドイツロマン主義以外の画家、スペインの「ゴヤ」や、ベルギーの画家も記載させて頂いておりますが、詳細は割愛させて頂きました。
ご興味のある方は、ぜひ色々と調べてみてください。
フランスとイギリスのロマン主義については、以下の記事をご参照ください。
- ロマン主義・フランス:個人の感情を重視するドラクロワの登場
- ロマン主義・イギリス:イギリス絵画の黄金期
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
西洋美術史の全体像は年表でご紹介させて頂いております。
合わせてご覧頂くと時代の流れが理解しやすくなると思います。
コメント