ポンピドゥー・センターで見る前衛芸術の衝撃 ダダイスムとシュルレアリスム

ポンピドゥー・センター コレクション ダダイズム シュルレアリスム パリ
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今回ご紹介させて頂くのは、「ダダイズム」、「シュルレアリスム」になります。

ついに絵画のスタイルは無意識の世界に突入します。

ダダイズムは、1916年頃から20年前半にかけて、絵画の世界にとどまらず、様々な分野に広がっていきます。

多くの広がりを見せたダダイズムですが、その本質は「それまでの芸術の否定」です。

ダダイズムが多くの国に広まっていったのは、第一次世界大戦の勃発が大きく影響しています。

ただし、「それまでの芸術の否定」だけでは新しいものは生まれません。

ダダイズムの抱えていた大きな問題の解決に向かおうとしたのが、シュルレアリスムになります。

シュルレアリスムがはっきりと認識されるのは、1924年ブルトンによる「シュルレアリスム宣言」が出版されたことによります。

ダダイズムが「破壊」であれば、シュルレアリスムは「生産」ということになります。

無意識の世界にあるものをどうすれば形に出来るのか模索したのが、シュルレアリスムになります。

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Dadaïsme ダダイズム

ダダイズムは、第一次世界大戦中にスイスのチューリッヒで生まれた芸術運動です。戦争の悲惨さや社会の矛盾に対する強烈な批判精神を持ち、「反芸術」を標榜しました。

主な特徴:

  • 既成概念の否定: 従来の芸術や社会の常識、理性、秩序などを徹底的に否定しました。
  • 無意味・不条理の肯定: 論理的な意味や美しさを持たない、ナンセンスで不条理な表現を重視しました。
  • 偶然性・即興性: 意図的な制作を避け、偶然や即興性を作品に取り入れました。
  • 多様な表現: 絵画、彫刻だけでなく、詩、音楽、演劇、写真、パフォーマンスなど、多様な表現方法を用いました。
  • コラージュやレディ・メイド: 新聞や雑誌の切り抜きを組み合わせたコラージュや、既製品をそのまま作品として提示するレディ・メイドといった手法が用いられました。

Francis Picabia (1879-1953)

フランシス・ピカビアは、フランスの前衛芸術家であり、そのキャリアを通して印象派、キュビスム、ダダ、シュルレアリスムなど、様々な芸術運動に関わりました。

主な特徴:

  • 変幻自在なスタイル: ピカビアの最大の特色はその多岐にわたるスタイルです。初期の印象派から始まり、キュビスム、そしてダダの主要な人物となり、その後シュルレアリスムにも短期間関わりました。晩年は抽象的な作風に戻るなど、常に新しい表現を追求しました。
  • ダダの主要人物: マルセル・デュシャンやマン・レイと共に、ニューヨークとパリにおけるダダ運動の初期の重要な推進者でした。機械的な形態を人間に見立てた「メカノモルフ」と呼ばれる独特の作品群は、ダダのユーモアと反芸術の精神を体現しています。
  • 出版活動: 自身の雑誌「391」を創刊し、ダダの思想や自身の芸術を発表する場としました。
  • 挑発的な姿勢: 既存の芸術や社会の価値観を挑発するような、反骨精神に満ちた作品を制作しました。
Francis Picabia (1879-1953)Pompe (1922)

Pompe (1922)

この時期のピカビアは、ダダイスムの影響下で人間の内面や感情、官能性を機械の図式で表現するスタイルを確立しており、「Pompe」もその流れにあります。「Pompe(ポンプ)」は性的・エネルギー的な隠喩と解釈されています。

ニューヨーク・ダダのメンバーであったことから、ダダイズムに分類されることが多いかもしれません。

Raoul Hausmann (1886-1971)

ラウル・ハウスマンは、オーストリア生まれの芸術家であり、ベルリン・ダダの創設メンバーの一人として最もよく知られています。

主な特徴:

  • ベルリン・ダダの主要人物: ジョン・ハートフィールドやハンナ・ヘッヒらと共にベルリン・ダダを牽引し、その思想と活動の中心的な役割を果たしました。「ダダゾーフ(ダダ哲学者)」とも呼ばれました。
  • フォトモンタージュの創始者の一人: 当時恋人だったハンナ・ヘッヒと共に、写真や印刷物を切り貼りして新たなイメージを作り出すフォトモンタージュの技法を開発しました。これはダダの反芸術的な精神や社会批判を表現する強力な手段となりました。
  • 視覚詩と音響詩: 文字の配置やタイポグラフィーを視覚的に捉えた「ポスター詩」や「文字詩」を制作し、自ら朗読するパフォーマンスも行いました。音響的な要素と視覚的な要素を組み合わせた表現を追求しました。
  • 機械的な頭部 (Der Mechanische Kopf): 頭部に様々なオブジェを取り付けた彫刻作品『機械的な頭部』は、ハウスマンの代表作であり、人間の理性や思考を機械的に捉えたダダの思想を象徴しています。
Raoul Hausmann (1886-1971)Gelbes Pferd (Cheval jaune) (1916)

Gelbes Pferd (Cheval jaune) (1916)

馬の具象的な姿は描かれず、抽象的で幾何学的な形態によって構成されています。

Marcel Duchamp (1887-1968)

マルセル・デュシャンは、フランスの芸術家であり、20世紀美術において最も影響力のある人物の一人とされています。ダダとシュルレアリスムの双方に関わりながらも、どちらの運動にも完全に属することなく、独自の革新的な道を切り開きました。

主な特徴:

  • 「レディ・メイド」の提唱: 日常の既製品をそのまま芸術作品として提示する「レディ・メイド」の概念を創案しました。代表作には、小便器にサインをした『泉』や、自転車の車輪をスツールに取り付けた『自転車の車輪』などがあります。これは「芸術とは何か」という根源的な問いを投げかけ、従来の芸術の概念を大きく揺るがしました。
  • 反芸術の精神: ダダの精神を受け継ぎ、伝統的な美意識や技巧主義を否定し、知的で概念的なアプローチを重視しました。
  • 大ガラス (Le Grand Verre): 長年にわたり制作された巨大な作品『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』は、彼の芸術観を集約した複雑で謎めいた作品です。
  • チェスへの情熱: 後年は芸術活動から徐々に離れ、チェスに情熱を注ぎ、プロのチェスプレイヤーとしても活動しました。
  • 概念芸術の先駆者: デュシャンの思考と作品は、後の概念芸術(コンセプチュアル・アート)に決定的な影響を与えました。作品の視覚的な美しさよりも、その背後にあるアイデアやコンセプトを重視する芸術の潮流を生み出すきっかけとなりました。
Marcel Duchamp (1887-1968)Neuf Moules Mâlic (1914-15)

Neuf Moules Mâlic (1914-15)

ニューヨーク・ダダの中心的な人物として知られているマルセル・デュシャン。

20世紀の芸術に多大な影響を及ぼしましたが、30代半ば以降はほとんど作品を制作していない芸術家です。

デュシャンは芸術を、見る側の捉え方によるものであると考えていました。

そのため、芸術家の意図したものを、正しく鑑賞者に伝えるためには、コンセプトを共有する必要があると考えます。

コンセプトを共有化するために様々な方法を考えますが、最終的には「泉」の成功によりその目的は達したと考えていたのかもしれません。

Marcel Duchamp (1887-1968)In Advance of the Broken Arm (En prévision du bras cassé) (1915-1964)

In Advance of the Broken Arm (En prévision du bras cassé) (1915-1964)

「骨折に備えて」は物理的な加工はほぼ加えず、タイトルと文脈によって意味を付加しています。

アートとは何か?という問いを投げかける作品でもあります。

Marcel Duchamp (1887-1968)Fresh Widow (1920-64)

Fresh Widow (1920-64)

「Fresh Widow」は、言葉遊びで “French Window(フレンチ・ウィンドウ)” をもじったものになります。

また「Fresh Widow」は「新しい未亡人」を意味し、第一次世界大戦後の喪失や社会的影響を示唆しています。

単なる言葉遊び以上に、戦争、視覚、ジェンダー、記憶など多層的なテーマを含み、見ること・見えないことの意味を問いかける重要な作品とされています。

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Surréalisme シュルレアリスム

シュルレアリスム(Surréalisme)は、第一次世界大戦後の1920年代にフランスを中心に興った芸術・思想運動です。アンドレ・ブルトンが提唱した文学運動を起源とし、その後、絵画、彫刻、写真、映画など、幅広い分野に影響を与えました。

主な特徴:

  • 無意識の探求: 人間の理性や意識によって抑圧された無意識の世界(夢、潜在意識、衝動など)こそが、創造性の源泉であると考えました。
  • 現実を超えるもの (Surréel): 日常的な現実を超えた、非現実的で幻想的な世界を表現しようとしました。
  • 自動記述(オートマティスム): 理性的なコントロールを排し、無意識のままに言葉やイメージを書き出す、描くといった手法を重視しました。
  • 夢の解釈: フロイトの精神分析の影響を受け、夢を重要な表現の源泉と捉え、その分析やイメージを作品に取り入れました。
  • オブジェの発見と創造: 日常的なオブジェに予期せぬ意味や機能を付与したり、異質なオブジェを組み合わせたりすることで、シュルレアリスム的な効果を生み出しました。
  • コラージュやデカルコマニーなどの技法: 偶然性や無意識の働きを利用した様々な表現技法が用いられました。

Alberto Savinio (1891-1952)

アルベルト・サヴィニオは、イタリアの多才な芸術家です。本名はアンドレア・フランチェスコ・アルベルト・デ・キリコ(Andrea Francesco Alberto de Chirico)で、形而上絵画の巨匠ジョルジョ・デ・キリコの弟としても知られています。

主な特徴:

  • 多岐にわたる才能: 画家としてだけでなく、作家、劇作家、作曲家、ジャーナリスト、エッセイスト、舞台美術家としても活動しました。
  • シュルレアリスムとの関連: 兄ジョルジョ・デ・キリコと共に形而上絵画の先駆者とされ、その後シュルレアリスムの運動にも深く関わりました。しかし、どちらの運動にも完全に属することなく、独自の幻想的で知的な世界観を展開しました。
Alberto Savinio (1891-1952)Le Songe (1930)

Le Songe (1930)

Le Songe(夢)は、人間と動物、オブジェが奇妙に融合した夢幻的な世界を描いています。

タイトルにふさわしく、無意識や記憶、神話的イメージを想起させる構成となっています。

Joan Miró (1893-1983)

ジョアン・ミロは、スペイン(カタルーニャ地方出身)の20世紀を代表する画家、彫刻家、版画家です。シュルレアリスムの重要なメンバーの一人でありながら、既存のどの流派にもとらわれない、独特の詩的で抽象的な画風を確立しました。

主な特徴:

  • 夢と無意識の世界: シュルレアリスムの影響を受け、夢や無意識の世界から湧き出るイメージを自由に表現しました。
  • 有機的なフォルムと記号的な要素: 太陽、月、星、鳥、女性など、自然や生命の要素を単純化・記号化し、伸びやかで有機的なフォルムで描きました。
  • 明るく鮮やかな色彩: 青、赤、黄、緑などの鮮やかな原色を多用し、画面に生き生きとしたリズム感を与えました。
  • 自由な線と軽快な筆致: 子供の落書きのような自由で伸びやかな線と、軽快な筆致が特徴です。
Joan Miró (1893-1983)L'Addition (1925)

L’Addition (1925)

「L’Addition」(勘定)というタイトルに反し、現実の論理(”勘定”)を詩的・超現実的に解体し、夢のような視覚言語へと変換しています。日常と無意識、秩序と無秩序のあいだの緊張感を描いています。

Joan Miró (1893-1983)Peinture (1927)

Peinture (1927)

人物・星・動物・身体の断片などを思わせる詩的で自由な図像で、明確な物語性や具象性を排し、夢・無意識・宇宙的リズムを表現しています。

タイトルの「Peinture(絵画)」は、ミロが純粋な絵画の可能性を追求した姿勢の表れと言われています。

Joan Miró (1893-1983)Sans titre (été 1929)

Sans titre (été 1929)

絵画というより視覚的な詩/夢の断片のような構成になっています。ミロが追求していた「夢の論理」や「自動記述的イメージ」の具現化し、言葉の意味や物語を排し、直観・無意識・感覚に訴えかける作品となっています。

Joan Miró (1893-1983)Bleu I (1961)

Bleu I (1961)

ミロにとって完璧な背景を描くために、ただ色を塗るだけでなく、心技体、筆の動き、手首の動き、呼吸などを整え描いた作品です。

3部作の1作目で、ミロが到達した「究極に削ぎ落とされた表現」の象徴であります。

青は「夢・無限・自由」を象徴する色であり、描くというより「宇宙に印を残すような行為」と評されています。

Joan Miró (1893-1983)Bleu II (1961)

Bleu II (1961)

ランダムに見える黒い点(石)も日本の禅寺の庭のように、規律をもって配置されています。

三部作の中でも最も動きと詩的リズムが強く、音楽的・舞踊的とも言われる作品です。

Joan Miró (1893-1983)Bleu III (1961)

Bleu III (1961)

「Bleu I」と比較すると、黒い線の描き方が異なります。

三部作の中で最も静けさと余白が強調された構成となっています。

André Masson (1896-1987)

アンドレ・マッソンは、フランスの画家であり、初期シュルレアリスムの重要なメンバーの一人です。

キュビスムの影響を受けていました。

主な特徴:

  • 自動記述(オートマティスム)の探求: 初期には、理性によるコントロールを極力排除し、無意識の流れに身を任せて描く自動記述の手法を積極的に探求しました。これはシュルレアリスムの重要な表現方法の一つです。
  • 激しく動きのある線と形態: マッソンの作品は、奔放でエネルギーに満ちた線と、有機的で変幻自在な形態が特徴です。
  • 闘争や変容のテーマ: 人間や動物の闘争、変容、エロティシズムといった、根源的なエネルギーや衝動をテーマとした作品が多く見られます。
  • 砂や接着剤などの異素材の導入: 絵具に砂や接着剤などの異素材を混ぜたり、画面に直接貼り付けたりすることで、テクスチャーや偶然性を強調しました。
  • シュルレアリスムからの離脱と回帰: 一時期シュルレアリスムの教条主義的な側面に反発してグループを離れましたが、後に再び関わるなど、複雑な関係を持ちました。
  • 第二次世界大戦中の亡命: 第二次世界大戦中はアメリカ合衆国に亡命し、その経験が作品に影響を与えました。
André Masson (1896-1987)Les Villageois (1927)

Les Villageois (1927)

村人という主題を通して、日常と無意識の境界を探る作品です。

マッソンの特徴である「自動記述(オートマティスム)」の実践によって、無意識の衝動や記憶の断片が作品に反映されています。

タイトルの「村人たち」は、共同体の象徴であると同時に、人間の原始的な欲望や暴力性も内包している可能性があると言われています。

Gérard Schneider (1896-1986)

ジェラール・シュナイダーは、スイス生まれのフランスの画家であり、タシスム(抽象表現主義の一種で、筆触や素材感を重視する傾向)の主要な人物の一人として知られています。

主な特徴:

  • リリカル・アブストラクション(抒情的抽象)の代表: シュナイダーの作品は、感情や内面性を自由な色彩と筆致で表現するリリカル・アブストラクションの代表的な例とされます。
  • 力強くダイナミックな筆致: 大胆で力強い筆の運びと、鮮やかな色彩のコントラストが特徴です。感情の爆発やエネルギーが画面全体から感じられます。
  • 即興性と身体性: 作品制作においては、計画性よりも即興性や身体的な動きが重視されました。絵具を叩きつけたり、塗り広げたりするような、ジェスチャーペインティングの要素も持ち合わせています。
  • 抽象的な形態と色彩の探求: 具体的な対象物を描くのではなく、色彩や形態そのものが持つ表現力を追求しました。
  • タシスムの推進: 第二次世界大戦後のパリで興ったタシスムの運動において、重要な役割を果たしました。素材の質感や偶然性、画家の身体性を重視するその傾向を体現しています。
Gérard Schneider (1896-1986)Opus 15C (1956)

Opus 15C (1956)

力強い線と動的な筆致によって構成される抽象的な形態です。

タイトルの「Opus」は、シュナイダーが音楽的構造を絵画に取り入れ、抽象的なメロディーやリズムを視覚化したことを示唆しています。

Jindrich Styrsky (1899-1942)

イジルド・スティルスキーは、チェコの画家、写真家、詩人、編集者、美術理論家であり、チェコにおけるシュルレアリスムの重要な先駆者かつ中心人物の一人です。

主な特徴:

  • 多様な表現: 絵画、写真、詩、挿絵、舞台美術、編集など、多岐にわたる分野で才能を発揮しました。
  • 初期のポエティズムからシュルレアリスムへ: 1920年代には、ヴィーチェスラフ・ネズヴァルらと共にチェコの前衛芸術運動「ポエティズム」を牽引しました。その後、1930年代にはシュルレアリスムへと移行し、チェコ・シュルレアリスムの確立に大きく貢献しました。
  • エロティシズムと夢の探求: シュルレアリスム期には、エロティシズムや夢、無意識の世界をテーマとした作品を多く制作しました。
  • 独特の幻想的なイメージ: 現実と非現実が交錯するような、独特の幻想的で詩的なイメージを作り出しました。
  • フォトモンタージュの活用: 写真においても、シュルレアリスム的な視点からフォトモンタージュの技法を積極的に用い、奇妙で魅力的な作品を生み出しました。
  • 理論家としての活動: 美術理論家としても活動し、チェコにおける前衛芸術の発展に貢献しました。
Jindrich Styrsky (1899-1942)Le gilet de Maïakovski (1939)

Le gilet de Maïakovski (1939)

マヤコフスキーの悲劇的な生涯を踏まえた、失われた存在への追悼を表し、衣服は人の不在を際立たせる「抜け殻」としての象徴となっています。

赤いベストは、ロシア未来派の詩人「ウラジーミル・マヤコフスキー」を表しています。

Yves Tanguy (1900-1955)

イヴ・タンギーは、フランス生まれの画家であり、シュルレアリスムの重要なメンバーの一人です。18歳の時に、キリコに影響を受けて初めて絵画を描くようになりました。

主な特徴:

  • 夢のような風景: タンギーの作品は、独特の夢のような、あるいは深海の底のような、非現実的な風景を描いています。広大な空間に、有機的でありながら奇妙な形をした物体が、まるで静止したまま漂っているような光景が特徴です。
  • 無意識からの形象: 独学で絵画を始めたタンギーは、初期から理性的なコントロールを排し、無意識から湧き出るイメージを自由に描きました。
  • 細密な描写と不気味な静けさ: 描かれる物体は細密に描写されていますが、その配置や全体的な雰囲気は不気味な静けさをたたえています。
  • シュルレアリスムへの参加: アンドレ・ブルトンに認められ、1925年にシュルレアリスム運動に参加しました。彼の描く幻想的な世界は、シュルレアリスムの探求する無意識の世界観と深く共鳴しました。
Yves Tanguy (1900-1955)Le Phare (1926)

Le Phare (1926)

現実には存在しない、滑らかで乾いたような荒涼とした超現実的な地形に、抽象的な生物のような形態やオブジェが、静止した時間の中に浮かんでいます。

灯台(Phare)は、明確に描かれていなくても、象徴的な存在として不穏さや導きのイメージを想起させています。

タンギーにとって灯台は、精神的な指針や記憶の灯として描かれています。

作品は、幼少期を過ごしたブルターニュの思い出を描いています。

Léon Tutundjian (1906-1968)

レオン・チュチュンジャンは、アルメニア生まれのフランスの彫刻家、画家であり、シュルレアリスムの運動に関わった芸術家の一人です。主に彫刻家として活動していました。

Léon Tutundjian (1906-1968)Sans titre (1927) 左 Formes bleues (1926) 右

Sans titre (1927) 左 
Formes bleues (1926) 右

「Sans titre (1927) 左」は、バランスのとれた画面構成になっていて、造形的な緊張感と秩序を感じさせる作品になっています。「無題」というタイトルにより、純粋な視覚体験や形式美に焦点を当てています。

「Formes bleues (1926) 右」は、青を基調とした柔らかく有機的な形態が浮遊するように配置されています。

Balthus (1908-2001)

バルテュスは、フランスの画家です。本名はバルタザール・ミシェル・クロソウスキー・ド・ローラ(Balthasar Michel Klossowski de Rola)。ピカソに「20世紀最後の巨匠」と言わしめたことで知られています。日本との関わりも深く、出田節子と結婚しています。

主な特徴:

  • 独特の具象表現: 20世紀のモダンアートが抽象化に向かう中で、古典的な技法を用いながらも、夢のような、あるいはどこか不穏な雰囲気を持つ独特の具象絵画を描きました。
  • 少女像の多さ: 思春期の少女を題材とした作品が多く、その描写は時にエロティックで物議を醸しました。しかし、バルテュス自身は自身の作品をポルノグラフィーとは一線を画すものと主張していました。
  • 静謐さと緊張感: 彼の描く画面は、静けさの中に潜在的な緊張感や物語性を秘めています。時間や感情が止まったかのような、不思議な感覚を与えます。
Balthus (1908-2001)La Toilette de Cathy (1933)

La Toilette de Cathy (1933)

ルネサンス的な構成や明暗表現が使われ、時代錯誤的な静けさが漂う作品です。

「嵐が丘」にインスピレーションを受け、文学と自伝の回想を混ぜて表現されています。

Balthus (1908-2001)La Chambre turque (1965-66)

La Chambre turque (1965-66)

作品は1964年にローマにあるヴィラ・メディチの館長になったことにより、トルコの部屋をモチーフとしてオリエンタリズムを再定式化しています。

トルコ風の部屋は、夢・欲望・記憶の舞台として描かれています。

Balthus (1908-2001)Grande composition au corbeau (1983-86)

Grande composition au corbeau (1983-86)

スイス・ヴォー州のロシニエールで制作した最後の作品の一つと言われています。

中央に黒いカラス(corbeau)が登場する、象徴的な室内シーンが描かれ、人物、動物、家具などが静止した舞台のように配置され、時間が止まったような印象を与えます。

絵画空間そのものが、夢・記憶・寓意の層を重ねたような「精神の劇場」となっています。

Francis Bacon (1909-1992)

フランシス・ベーコンは、アイルランド生まれのイギリス人画家であり、20世紀において最も重要な具象画家の一人とされています。抽象絵画が主流となった第二次世界大戦後の美術界において、人間の孤独、苦悩、暴力性などを、歪んだ肉体や孤立した人物像を通して強烈に描き出しました。

主な特徴:

  • 強烈な具象表現: 歪み、引き伸ばされ、変形した人間の肉体を、生々しく、時にグロテスクに描きました。
  • 孤立した人物像: 檻のような空間や、何もない背景の中に人物を単独で配置することが多く、孤独や不安感を強調しました。
  • 感情の激しい表出: 叫びや苦悶の表情、身体のねじれなどによって、人間の内面の激しい感情を表現しました。
  • 三連画(トリプティク)の多用: 複数の画面を組み合わせた大作を多く制作し、物語性や時間的な流れを示唆しました。
  • 古典絵画からの影響: ベラスケスの肖像画や、磔刑図といった古典的な主題を、独自の解釈で描き直しました。
Francis Bacon (1909-1992)Van Gogh in a landscape (Van Gogh dans un paysage) (1957)

Van Gogh in a landscape (Van Gogh dans un paysage) (1957)

ベーコンがゴッホをテーマにした作品で、ゴッホの精神的な苦悩や孤独感を表現し、ベーコン特有の歪んだ人体暴力的な色使いが特徴的です。

ゴッホの姿が風景の中に溶け込むように描かれ、彼の芸術家としての孤独や精神的な苦痛を象徴的に表現しています。

Wilhelm Freddie (1909-1995)

ヴィルヘルム・フレディは、デンマークの画家であり、シュルレアリスムの重要な人物の一人です。特に挑発的でエロティックな作品で知られています。

主な特徴:

  • 初期シュルレアリスムへの参加: 1930年代初頭からシュルレアリスム運動に参加し、その影響を強く受けました。
  • エロティシズムとタブーの探求: 性的なテーマを露骨に扱い、当時の社会的なタブーに挑戦するような作品を制作しました。
  • 夢や無意識の視覚化: シュルレアリスムの理念に基づき、夢や無意識の世界から湧き出るイメージを、鮮やかな色彩と奇妙な形態で表現しました。
  • 挑発的なオブジェクトと組み合わせ: 日常的なオブジェクトを予期せぬ組み合わせで配置し、性的あるいは心理的な意味合いを付与しました。
Wilhelm Freddie (1909-1995)Nonnens bøn (La prière de la religieuse) (1937)

Nonnens bøn (La prière de la religieuse) (1937)

Nonnens bøn(修道女の祈り)は、修道女が祈りを捧げる姿を描き、肉体的な形態が奇妙に歪められています。信仰と欲望精神と肉体の葛藤を表現しており、祈りという行為が単なる宗教的儀式を超え、身体的・心理的な解放を象徴しています。

Wilhelm Freddie (1909-1995)Les tentations de Saint Antoine (1939)

Les tentations de Saint Antoine (1939)

Les tentations de Saint Antoine(聖アントワーヌの誘惑)は、聖アントワーヌが誘惑に苦しむシーンを描いており、肉体と精神の葛藤がテーマになっています。

宗教的なテーマを通じて、欲望と信仰、肉体と精神の関係を深く掘り下げています。

当時はポルノグラフィーとして扱われていました。

Matta (1911-2002)

ロベルト・マッタは、チリ生まれの画家であり、シュルレアリスムから抽象表現主義への橋渡しをした重要な芸術家の一人です。

主な特徴:

  • 初期はシュルレアリスムに参加: 1930年代にパリでアンドレ・ブルトンと出会い、シュルレアリスム運動に加わりました。
  • 「心理的形態」の探求: 初期の作品では、「心理的形態 (Psychological Morphology)」と呼ばれる、内面的な心理状態や感情を抽象的な色彩と流動的な形で表現しました。
  • オートマティスムの重視: 無意識の流れを重視するオートマティスムの手法を用い、自由で即興的な描画を行いました。
  • アメリカへの亡命と抽象表現主義への影響: 第二次世界大戦中にアメリカへ亡命し、ジャクソン・ポロックやアーシル・ゴーキーら、後の抽象表現主義の画家たちに大きな影響を与えました。
Matta (1911-2002)Le Poète (Un poète de notre connaissance) (1944-45)

Le Poète (Un poète de notre connaissance) (1944-45)

Le Poète (Un poète de notre connaissance)(詩人(私たちの知っている詩人))は、詩人の内面的な世界を描いた作品で、彼の精神的な過程や創造的な力を視覚的に表現しています。

幻想的な形態と生動感あふれる色彩が特徴で、詩人が感じる深層的な思考や感情の流れが抽象的に描かれています。

Simon Hantaï (1922-2008)

シモン・ハンタイは、ハンガリー生まれのフランスの画家であり、20世紀後半の抽象絵画において重要な存在です。特に「プリヤージュ(pliage)」と呼ばれる独特の折り畳み技法を用いた作品で知られています。

主な特徴:

  • プリヤージュ(折り畳み)の技法: キャンバスを意図的に折り畳んでから彩色し、乾いた後に広げることで、予測不可能で独特な色彩と空白のパターンを生み出す技法を開発しました。この技法は、偶然性と画家の意図が複雑に絡み合う、革新的なものでした。
  • 抽象表現の探求: 具体的な形象を描かず、色彩、形態、そして何よりもプリヤージュによって生まれる痕跡そのものが表現となる、独自の抽象絵画を追求しました。
  • ミニマリズムとの関連: 折り畳みと彩色というシンプルな行為から生まれる画面は、ミニマリズムの要素も内包していると評されます。
  • 色彩の豊かさと繊細さ: 鮮やかでありながらも、どこか抑制の効いた色彩感覚が特徴です。プリヤージュによって生まれる色の重なりや滲みが、繊細なニュアンスを生み出します。
Simon Hantaï (1922-2008)Meun (1968)

Meun (1968)

白地と鮮やかな色彩のコントラストが強調され、画面にリズミカルなパターンが現れています。

制作時に拠点としていたフランスの村「ムアン(Meun)」の名がシリーズ名になっています。

Hervé Télémaque (1937-2022)

エルヴェ・テレマックは、ハイチ生まれのフランスの画家であり、ヌーヴェル・フィギュラシオン(新具象)の重要な人物の一人です。

テレマックは、自身のルーツであるハイチの文化と、ヨーロッパやアメリカの現代美術の動向を融合させ、独自の視覚言語を確立しました。彼のカラフルで多様なイメージが織りなす世界は、観る者の想像力を刺激します。ヌーヴェル・フィギュラシオンの代表的な画家として、その革新的な試みは高く評価されています。

Hervé Télémaque (1937-2022)Objets usuels, pour Vincent van Gogh ? (1970)

Objets usuels, pour Vincent van Gogh ? (1970)

Objets usuels, pour Vincent van Gogh ?(日常的な物体、フィンセント・ヴァン・ゴッホへ?)は、カラフルで象徴的な形態がゴッホの内面的な世界に通じ、視覚的に新たな解釈を提供しています。

テレマックは日常の物体を通じて、ゴッホの精神的な葛藤や孤独感を表現し、アートと日常生活を繋げることで、彼の作品に新たな意味をもたらしています。

Art Concret アート・コンクリート

アート・コンクリート(Art Concret)は、1930年頃にテオ・ファン・ドゥースブルフによって提唱された抽象芸術の潮流です。「具体的な芸術」という意味を持ち、主観的な感情や象徴性を一切排除し、純粋な幾何学的要素(線、面、色彩)のみによって構成される芸術を目指しました。

主な特徴:

  • 純粋な幾何学的抽象: 円、正方形、直線といった基本的な幾何学的形態と、原色などの限定された色彩のみを用います。
  • 主観や感情の排除: 作家の個人的な感情や、自然や現実世界の模倣といった要素を完全に排除します。
  • 知的で論理的な構成: 数学的な原理や論理に基づいて、厳密に構成された画面が特徴です。偶然性や即興性も否定されます。
  • 装飾性の否定: 美的な装飾や効果を目的とせず、要素そのものの純粋な関係性を示そうとします。
  • 普遍性の追求: 個人的な表現を超え、普遍的で客観的な美の創造を目指しました。

Otto Carlsund (1897-1948)

オットー・カールスンドは、スウェーデンの前衛芸術家、キュレーター、美術評論家です。キュビスム、ピュリスム、新造形主義、そしてアート・コンクリートといった様々な芸術運動に関わりました。

フェルナン・レジェとアメデエ・オザンファンに師事したオットー・カールスンドは、オザンファンのスタイルにより大きな影響を受けました。その後、建築家ル・コルビュジエのプロジェクトに携わるようになりました。

主な特徴:

  • アート・コンクリートの初期メンバー: 1929年にテオ・ファン・ドゥースブルフ、ジャン・ヘリオン、レオン・チュチュンジャンらと共にアート・コンクリートを結成し、翌年には共同宣言を発表しました。
  • 純粋な抽象: 感情や象徴性を排し、幾何学的な形態と純粋な色彩による抽象表現を追求しました。
Otto Carlsund (1897-1948)Komposition för Elevator (Composition pour escalier) (1926)

Komposition för Elevator (Composition pour escalier) (1926)

Komposition för Elevator(エレベーターのための構成)は、機械的な構造動的な要素を強調し、エレベーター階段などの機能的な構成を抽象的に表現しています。

この作品はキュビスムの影響を強く受けていますが、構成主義の影響を強く受けていくようになります。

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まとめ

1924年、詩人アンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言」によって誕生したシュルレアリスムですが、1968年ブルトンの死によって分裂していくことになります。

なお、シュルレアリスム自体は現在も引き続き活動が行われています。

ポンピドゥー・センターの他のコレクションは以下の記事でご紹介させて頂いております。

合わせてご参照ください。

ポンピドゥー・センターにつていの概要は以下の記事で詳しくご紹介させて頂いております。

パリパリ美術館
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