19世紀フランスで、伝統的な絵画のあり方に反旗を翻し、自然をありのままに描くことを追求し、イーゼルを持って戸外で活動した画家たちがいました。
彼らはフォンテーヌブローの森にほど近いバルビゾン村に集まり、「バルビゾン派」と呼ばれるようになりました。
本記事では、後の印象派にも多大な影響を与えたバルビゾン派の画家たちの人物相関図を通して、彼らの繋がりや時代背景、そして後世への影響を詳しく解説します。
バルビゾン派とは
バルビゾン派
「バルビゾン派(École de Barbizon)」とは、19世紀のフランス、フォンテーヌブローの森の近くにあるバルビゾン村に集まった画家たちの総称です。
彼らは、歴史画や宗教画といった伝統的な絵画から離れ、自然を直接観察し、ありのままの風景を描くことを重視しました。
- 自然主義、写実主義の風景画が中心
- 画家それぞれは肖像画なども制作
- 初期にバルビゾンに滞在した、コロー、ミレー、ルソー、ドービニー、トロワイヨン、デュプレ、ディアズの7人は「バルビゾン七星」と呼ばれる
- 1891年に英国の芸術評論家David Croal Thomson(1855-1930)によって命名
活動期間
1830年頃から1870年頃まで
バルビゾン派の特徴
- 戸外制作:従来の室内での制作ではなく、自然の中で直接風景を描く「戸外制作(プレネール)」を実践
- 自然へのまなざし:理想化された自然ではなく、ありのままの自然の姿を捉えようとした
- 農民の描写:それまで絵画の主題とされなかった農民の生活や労働を、尊厳をもって描いた
バルビゾン派が後世に与えた影響
バルビゾン派の画家たちは、それまでの絵画の常識を打ち破り、自然をありのままに描くという新たな絵画の潮流を生み出しました。
彼らの試みは、後の印象派の画家たちに大きな影響を与え、近代絵画の発展に貢献しました。
- 印象派への影響:モネ、ルノワール、シスレーといった印象派の画家たちは、バルビゾン派の画家たちから戸外制作や自然の描写を学び、独自の絵画表現を追求しました
- 写実主義の発展:クールベをはじめとする写実主義の画家たちも、バルビゾン派の自然観や農民へのまなざしに共感し、現実をありのままに描くことを追求しました
年表
1822年、コローがフォンテーヌブローの森を初めて訪れる
1824年、サロンに、イギリスを代表する画家、John Constable (1776-1837)の作品が出品される
1829年、コローがバルビゾン村を訪れる
1830年、31年、コローがフォンテーヌブローに関する作品をサロンに出品
1841年、鉄道開通
1848年、フランス2月革命
1848年~1852年、フランス第二共和政
1860年代、モネ、シスレー、ルノワールが訪れる
1870年、フランス第三共和政
出典:ウィキペディア Barbizon school より引用
代表画家
ジャン・ヴィクトァール・ベルタン(Jean-Victor Bertin, 1767-1842)
- 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したフランスの風景画家。
- 新古典主義的な様式で、イタリアの風景などを描きました。
- ピエール=アンリ・ド・ヴァランシエンヌの弟子であり、多くの風景画家を育成しました。
アシール・エトナ・ミシャロン(Achille-Etna Michallon, 1796-1822)
- 19世紀フランスの風景画家。
- 新古典主義的な様式で、歴史的な風景画を描きました。
- ジャン=ヴィクトール・ベルタンの弟子であり、カミーユ・コローの師としても知られています。
ジョセフ・フランソワ・パリ(Joseph François Paris, 1784-1871)
- 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したフランスの画家。
- 風景画家として知られています。
カミーユ・フレール(Camille Flers, 1802-1868)
- 19世紀フランスの風景画家。
- バルビゾン派の先駆者の一人であり、自然の風景を写実的に描きました。
ルイ・ニコラ・カバット(Louis-Nicolas Cabat, 1812-1893)
- 19世紀フランスの風景画家。
- バルビゾン派の画家として知られ、自然の風景を写実的に描きました。
- フランス第三共和政の官僚も務めました。
コンスタン・デュティユー(Constant Dutilleux, 1807-1865)
- 19世紀フランスの画家。
- 風景画家として知られ、バルビゾン派の画家たちと交流がありました。
- シャルル・ドービニーの師としても知られています。
これらの画家たちは、19世紀フランスの風景画壇において、新古典主義からバルビゾン派への移行期に活躍し、自然をありのままに描くという新しい風景画の潮流を築きました。
ジャン・バティスト・カミーユ・コロー (Jean-Baptiste Camille Corot, 1796-1875)
- バルビゾン派の中心的画家。
- 詩情豊かな風景画を描き、印象派の画家たちにも影響を与えました。
- 代表作:「モルトフォンテーヌの思い出」
シャルル・フランソワ・ドービニー(Charles-François Daubigny, 1817-1878)
- バルビゾン派の画家。
- 川辺の風景を多く描き、水面の表現に優れていました。
- 印象派の画家たちにも影響を与えました。
- 代表作:「オワーズの風景」
ジャン・フランソワ・ミレー(Jean Francois Millet, 1814-1875)
- バルビゾン派の画家。
- 農民の生活を主題とした作品を多く描き、社会的なメッセージを込めました。
- 代表作:「落穂拾い」「晩鐘」
テオドール・ルソー(Théodore Rousseau, 1812-1867)
- バルビゾン派の画家。
- 自然の力強さや変化を描いた作品で知られています。
- バルビゾン派の中心的画家の一人であり、その活動を牽引しました。
- 代表作:「オークの大木」
ナルシス・ヴィルジール・ディアズ (Narcisse Virgilio Díaz de la Peña,1808-1876)
- バルビゾン派の画家。
- 森の風景や人物画を描き、ロマン主義的な作風で知られています。
- 代表作:「フォンテーヌブローの森」
コンスタン・トロワイヨン(Constant Troyon, 1810-1865)
- バルビゾン派の画家。
- 動物画を得意とし、特に牛の絵で知られています。
- 代表作:「牛の帰還」
ジュール・デュプレ(Jules Dupré, 1811-1889)
- バルビゾン派の画家。
- 風景画を描き、自然の力強さや変化を描いた作品で知られています。
- 代表作:「牛のいる風景」
シャルル・エミール・ジャック(Charles Émile Jacque, 1813-1894)
- 19世紀フランスの画家、版画家。
- バルビゾン派の画家として知られ、農村風景や動物画を多く手がけました。
- 特に羊の絵を得意とし、「羊のラファエロ」とも呼ばれました。
フェルディナンド・シャニョー(Ferdinand Chaigneau, 1830-1906)
- 19世紀フランスの画家。
- バルビゾン派の影響を受け、農村風景や動物画を制作しました。
シャルル・ジョセフ・レモンド(Jean-Charles-Joseph Rémond, 1795-1875)
- 19世紀フランスの画家。
- 新古典主義の風景画家として知られています。
ギヨーム・ギヨン・ルティエール(Guillaume Guillon Lethière, 1760-1832)
- 新古典主義のフランスの画家。
- 歴史画や神話画を制作し、ダヴィットのライバルとしても知られています。
アントワーヌ・ギユメ(Antoine Guillemet, 1843-1918)
- 19世紀フランスの画家。
- 風景画家として知られ、印象派の画家たちとも交流がありました。
- 代表作:「ベルシー河岸」
ジュール=アレクサンドル・グリューン(Jules-Alexandre Grün, 1868-1938)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家、イラストレーター。
- パリの社交界や夜の風景を描いた作品で知られています。
フランソワ・スション(François Souchon, 1787-1857)
- 19世紀フランスの画家。
- 歴史画家として知られています。
カロリュス・デュラン(Carolus-Duran, 1837-1917)
- 19世紀フランスの画家。
- 肖像画家として知られ、写実的で洗練された作風で人気を博しました。
- 代表作:「手袋をした女」
アルフォン・スコーラ(Alphonse-Victor Colas, 1818-1887)
- 19世紀フランスの画家。
- 歴史画や宗教画を制作しました。
フィリップ・オーギュスト・ジャンロン(Philippe-Auguste Jeanron, 1808-1877)
- 19世紀フランスの画家、版画家。
- 風景画や風俗画を制作し、美術館の館長も務めました。
レオン・フランソワ・コメール(Léon-François Comerre, 1850-1916)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家。
- オリエンタリストの画家として知られ、エキゾチックな題材の作品を制作しました。
ルイ・フランセ(Louis Français, 1814-1897)
- 19世紀フランスの画家、版画家。
- 風景画家として知られ、バルビゾン派の影響を受けました。
ギュスターヴ・クールベ(Gustave Courbet, 1819-1877)
- 19世紀フランスの画家。
- 写実主義の画家として知られ、伝統的な絵画の様式にとらわれず、現実をありのままに描きました。
- 代表作:「オルナンの埋葬」「石割り」
アンリ・ハーピニー(Henri Harpignies, 1819-1916)
- 19世紀フランスの画家。
- バルビゾン派の影響を受け、風景画を多く手がけました。
- 代表作:「フォンテーヌブローの樫の木」
アルフレッド・ロール (Alfred Roll, 1846-1919)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家。
- 印象派の影響を受け、風景画や肖像画を制作しました。
- 代表作:「労働」
エマニュエル・ドゥ・ラ・ヴィレオン(Emmanuel de La Villéon, 1858-1944)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家。
- 風景画家として知られ、印象派の影響を受けながらも、独自のスタイルで自然を描きました。
フェリックス・ドゥ・ヴィーニュ (Félix De Vigne, 1806-1862)
- 19世紀ベルギーの画家。
- 歴史画家として知られ、中世の場面や肖像画を多く手がけました。
- ベルギーの歴史や文化を題材とした作品を制作しました。
ジュール・ブルトン(Jules Aldolphe Aimé Louis Breton,1827-1906)
- 19世紀フランスの画家。
- 農民画家として知られ、農村の風景や人々の生活を写実的に描きました。
- バルビゾン派の影響を受けながらも、独自のスタイルを確立しました。
- 代表作:「落穂拾い」「馬の飲み水場」
※ 分類が違う場合もあります。
バルビゾン派以外の画家が多く含まれています。
カタカナ表記に関して実際の発音と異なる場合もあります。
人物相関図

★ご利用の注意点★
上の代表画家の相関図です。
青い矢印は師弟関係を表していますが、実際はその関係がはっきりしていなかったり、ワークショップで働いたことがあるだけであったりします。
情報は英語版、フランス語版ウィキペディアを参考に製作しています。
まとめ
いかがでしたか。
イギリスの「ジョン・コンスタンブル」から影響を受けた若い画家たちにより、様々な風景画が描かれるようになりました。
この時代の風景画は非常に評価の低いものでしたが、バルビゾン派を中心とする画家たちが果敢に挑戦したことにより、後の印象派に繋がり、さらにその後、高い評価を得るようになっていきます。
全体的にカラーは落ち着いた作品が多いですが、当時のフォンテーヌブローの風景を今に伝える貴重な作品ばかりです。
またそれまで描かれることのなかった農民たちが、描かれるようになったのもこの時期からになります。
時代を代表する画家も多くご紹介させて頂きましたが、特に後の画家に大きな影響を与えたのは、バルビゾン派のコローと、写実主義のクールベになります。
そして、この時期の画家の作品の多くが、オルセー美術館に展示されています。
こちらで詳しくご紹介させて頂いておりますので、合わせてご覧になってみてください。

バルビゾン派までのフランス美術史の流れは以下になります。
- 前期ルネサンス:何故ルネサンスは起こったのか?
- 初期ルネサンス:多くの技術革新
- 盛期ルネサンス:ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロによる完成形
- マニエリスム:新たな世界観への挑戦
- バロック・イタリア:劇的なシーンの登場
- 古典主義・フランス:ルイ14世スタイルの誕生
- ロココ・フランス:華やかで優雅なルイ15世スタイル
- 新古典主義・フランス:ナポレオンの台頭、アンピール様式
- ロマン主義・フランス:個人の感情を重視するドラクロワの登場
- ロマン主義・イギリス:イギリス絵画の黄金期
- アカデミック美術・フランス:権威主義、絵画のランク付け
次回は日本で最も人気の高い「印象派」についてご紹介させて頂きます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
西洋美術史の全体像は年表でご紹介させて頂いております。
合わせてご覧頂くと時代の流れが理解しやすくなると思います。
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