今回ご紹介させて頂く作品は、印象派より少し前の世代になるバルビゾン派です。
基本的には写実主義の画家なのですが、フランスのバルビゾン村に集まったことからそう呼ばれるようになりました。
歴史画や宗教画ではなく、ありのままの自然をキャンパスに描こうとして、イーゼルを持って戸外で作品を製作しました。
それまでの絵画では描かれることのなかった、農民などが描かれているのも特徴的です。
特別な予備知識がなくても十分に楽しめるのも魅力の一つです。
それでは早速ご紹介させて頂きます。
バルビゾン派とは
バルビゾン派(École de Barbizon)とは、フランス、フォンテーヌブローの森のそばにあるバルビゾン村に集まった画家たちのことを指します。
基本的には自然主義、写実主義の風景画が中心になりますが、画家それぞれは肖像画等も描いています。
1822年にフォンテーヌブローの森を最初に訪れたのは、コローだと言われています。
その後、1824年サロンに、イギリスを代表する画家であり、ロマン主義の風景画家、John Constable (1776-1837)の作品が出品され、多くの若い画家に影響を与えました。
1829年に初めてコローがバルビゾン村を訪れます。
1830年、31年とコローは、フォンテーヌブローに関する作品をサロンに出品します。
その後多くの画家がバルビゾンを訪れるようになりました。
初期にバルビゾンに滞在した、コロー、ミレー、ルソー、ドービーニ、トロワイヨン、デュプレ、ディアズの7人を、バルビゾン七星と呼ぶこともあります。
これだけ多くの画家が集まったのには、1841年に鉄道が開通されたことも多いに影響しているようです。
それにより、ホテルやレストランなどがオープンし、長期の滞在が可能になったことも追い風になりました。
1860年代には、後に印象派となる、モネやルノワール、シスレーなども訪れています。
出典:ウィキペディア Barbizon school より引用
Jean-Baptiste Camille Corot (1796-1875)
ジャン=バティスト・カミーユ・コローは、19世紀フランスの風景画家で、パリで生まれ、同地で亡くなりました。
バルビゾン派の先駆者の一人とされ、「光の画家」とも呼ばれます。初期にはイタリアの風景を描き、古典的な構成と柔らかな光の表現を学びました。その後、フランス各地の風景、特にフォンテーヌブローの森や故郷周辺の景色を、詩情豊かで繊細なタッチで描きました。
彼の風景画は、灰色がかった緑や銀色のトーンを基調とし、木々や水面、そこに漂う空気感を捉えた、夢のような雰囲気を持つのが特徴です。人物を風景の中にさりげなく配置することも多く、その配置も画面の調和に貢献しています。
コローは、同時代の画家たちや若い世代の画家に大きな影響を与え、印象派の画家たちからも尊敬を集めました。彼の作品は、写実的な描写の中に、主観的な感情や詩的な感覚が溶け込んでいる点で、ロマン主義と印象主義の橋渡しをする存在として評価されています。

Une matinée, la danse des nymphes (1850)
《Une matinée, la danse des nymphes(朝の風景、ニンフたちの踊り)》は、朝靄に包まれた幻想的な森の中で、神話的存在であるニンフたちが軽やかに踊る様子が描かれています。柔らかい光と繊細な色使いが印象的で、現実と夢想の境界が溶け合うような、静謐で神秘的な雰囲気が漂います。

La charrette, souvenir de Marcoussis (1855)
《La charrette, souvenir de Marcoussis(荷馬車、マルクーシスの思い出)》は、パリ近郊の村マルクーシスでの情景をもとに描かれ、のどかな田園風景の中を進む荷馬車が穏やかな空気感とともに表現されています。コロー特有の柔らかい光と繊細な筆致が、静謐で詩的な雰囲気を醸し出しており、自然と人間の営みの調和が感じられます。

Une nymphe jouant avec un Amour (1857)
《Une nymphe jouant avec un Amour(キューピッドと戯れるニンフ)》は、森の中でニンフが愛の神キューピッド(アムール)と無邪気に戯れる場面を描いており、静謐で幻想的な自然の中に、優雅で柔らかな人間の姿が溶け込んでいます。

Le soir. Tour lointaine (1865-1870)
《Le soir. Tour lointaine(夕暮れ、遠くの塔)》は、夕暮れ時の穏やかな光が遠くの塔を照らし、静かな風景が広がっています。コロー特有の柔らかな光と色彩で、自然の中で時間がゆっくりと流れる感覚が表現されています。遠景の塔は、自然と人間の存在が調和した象徴的な要素として描かれており、静寂と平和な雰囲気が感じられます。

Le matin. Gardeuse de vaches (1865-70)
《Le matin. Gardeuse de vaches(朝、牛飼い娘)》では、朝の柔らかな光の中で牛を牧する少女が描かれています。コローは、自然の美しさを繊細な色使いと静かな構図で表現し、牧場の穏やかな雰囲気を捉えています。牛飼い娘の姿は、静かな田園生活と自然との調和を象徴しています。

Homme en armure (1868-70)
《Homme en armure(鎧を着た男)》では、鎧を着た男性が静かな姿勢で描かれており、コローの柔らかな筆致と光の使い方が特徴的です。人物の鎧は詳細に描かれ、彼の内面的な強さや歴史的な背景を感じさせる一方で、周囲の静けさや優雅さが自然と調和しています。

Le moulin de Saint-Nicolas-lez-Arras (1874)
《Le moulin de Saint-Nicolas-lez-Arras(サン=ニコラ=レ=アラスの風車)》では、フランス北部の風景が描かれており、風車が静かな田園風景の中に佇んでいます。コローは柔らかな光と色彩を使って、風車とその周りの自然を静謐に表現しており、田園の美しさと平穏な空気を捉えています。
Narcisse Diaz de la Peña (1807-1876)
ナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャは、フランスの画家で、ボルドーで生まれ、マントンで亡くなりました。
バルビゾン派の主要な画家の一人として知られています。フォンテーヌブローの森の風景、特に木々や林間の光を描いた作品で有名です。豊かな色彩と、力強く、時には劇的な筆致が特徴です。
もともとは陶器の絵付け職人でしたが、風景画家として活動するようになり、テオドール・ルソーやジュール・デュプレといったバルビゾン派の画家たちと親交を深めました。彼らとともにフォンテーヌブローの森に通い、自然を直接観察しながら制作を行いました。
ゴッホ、ルノワールなどが影響を受けたことでも知られています。

Le Bas-Bréau, forêt de Fontainebleau (1846)
《Le Bas-Bréau, forêt de Fontainebleau(フォンテーヌブローの森、バ・ブレオ)》は、フォンテーヌブローの森を舞台にしたもので、自然の美しさと静けさを描き出しています。ディアズはロマン主義的な感性で、森の光と陰、木々の密度、そして森林の生き生きとした自然を表現しています。作品全体に広がる柔らかな光と色彩の調和が、神秘的で夢幻的な雰囲気を醸し出し、自然の崇高さと力強さを感じさせます。

Les Hauteurs du Jean de Paris (1867)
《Les Hauteurs du Jean de Paris(ジャン・ド・パリの高台)》では、パリ郊外の風景が描かれており、特に高台から見下ろす視点が特徴的です。ディアズは柔らかな光と色彩を使い、自然の風景に情感豊かな表現を施し、風景に深い詩的な雰囲気を与えています。作品には、日常的な自然の美しさと、風景が持つ壮大さや静けさが描かれています。

Le braconnier (1869)
《Le braconnier(密猟者)》(1869)は、自然の中で密猟を行う人物を描いており、ディアズの風景画と人物画の融合を示しています。彼の特徴的な色彩と光の使い方によって、野生の自然と密猟者の存在が強調されています。密猟者は、自然の中で不穏な活動を行っているというテーマを通じて、自然との関わりにおける緊張感や野性が表現されています。

Lisière de forêt (1871)
《Lisière de forêt(森の縁)》では、森の縁を描き、木々の間から差し込む光と、自然の静けさを強調しています。ディアズの特徴である豊かな色彩と柔らかな光の表現が、風景に詩的で夢幻的な雰囲気を与えています。
Constant Troyon (1810-65)
コンスタン・トロワイヨンは、フランスの画家であり、バルビゾン派の重要な一員です。彼は当初、風景画家として活動していましたが、1840年代後半にオランダを訪れたことが転機となり、以降は動物、特に牛を描いた作品で高い評価を得るようになりました。

Le pâturage à la gardeuse d’oies (1854)
広がる牧草地の中に佇む少女とガチョウの群れが描かれており、自然の静けさと農村の素朴な日常が感じられます。
作品にはガチョウが描かれていますが、当時はこういった動物を描くことは評価されていないことでした。
トロワイヨンは生涯にわたり、多くの動物を描いています。

Boeufs allant au labour, effet de matin (1855)
《耕作に向かう牛たち、朝の効果(Boeufs allant au labour, effet de matin)》は、農作業に向かう牛と農夫を朝の柔らかな光の中で描いた風景画です。バルビゾン派特有の自然との調和を感じさせる本作では、霞がかった朝の空気感と、力強くも穏やかな牛たちの姿が印象的に表現されています。

Vache qui se gratte (1861)
《体をかく牛(Vache qui se gratte)》は、1頭の牛が体をかいている自然な仕草をとらえた動物画です。この作品は、単純な日常の一瞬を詩的に昇華しており、牛の力強さと愛らしさが同時に感じられます。
Jules Dupré (1811-1889)
ジュール・デュプレは、フランスの風景画家であり、バルビゾン派の主要なメンバーの一人です。彼は、自然の詩情における叙情的な側面を代表するコローや、叙事的な側面を代表するルソーとは対照的に、その悲劇的で劇的な側面を表現しました。初期には磁器の絵付け師として働いていましたが、後に風景画に専念し、特に嵐の空や劇的な夕焼けの風景を描くことを好みました。レンブラントやジョン・コンスタブルの影響を受け、フランスの風景画に新しい視点をもたらしたとされています。

La mare aux chênes (1850-55)
《樫の木のある池(La mare aux chênes)》は、フランスの農村風景を力強く描いた作品です。画面には、池のそばに立つ堂々たる樫の木が配され、重厚な雲と光のコントラストが自然のドラマを感じさせます。
Théodore Rousseau (1812-1867)
テオドール・ルソーは、フランスの風景画家であり、バルビゾン派の中心人物の一人です。彼は、ありのままの自然を忠実に描写することを重視し、フォンテーヌブローの森の風景を生涯にわたり描き続けました。その作品は、細部にわたる観察眼と、光と影の繊細な表現が特徴です。サロン・ド・パリへの出品を長年拒否されたにもかかわらず、批評家や他の画家たちからは高く評価され、バルビゾン派の画家たちに大きな影響を与えました。

Intérieur de forêt (1836-37)
《森の内部(Intérieur de forêt)》は、鬱蒼とした森林の奥深くを描いた作品で、自然の神秘性と荘厳さが際立つバルビゾン派の初期の名作です。木々が密集する暗い林床に差し込むわずかな光が、静寂な森の雰囲気を強調しています。ルソーはこの作品で、人間の手が及ばない自然の原初的な姿を表現しようとし、詩的かつ厳粛な自然観を提示しました。

Une avenue, forêt de L’Isle-Adam (1849)
《並木道、リル=アダムの森(Une avenue, forêt de L’Isle-Adam)》は、フランス北部の森を貫くまっすぐな並木道を描いた風景画です。画面中央に延びる道と、左右に立ち並ぶ木々が生む遠近感が、静謐でありながらも力強い構成を生み出しています。
Charles Émile Jacque (1813-1894)
シャルル=エミール・ジャックは、フランスの画家、版画家であり、バルビゾン派の一員です。彼は、特に羊をはじめとする家畜や農民の生活を描いた作品で知られています。「羊のラファエル」とも呼ばれ、農村の風景とそこに生きる動物たちを温かい眼差しで捉え、写実的かつ詩情豊かに表現しました。版画家としても優れており、19世紀のエッチング技法の復興に貢献しました。
養蜂家や風刺画、イラストレーター、彫刻家など多方面で活躍しました。

Troupeau de moutons dans un paysage (1861)
《風景の中の羊の群れ(Troupeau de moutons dans un paysage)》は、田園風景の中を進む羊の群れを描いた、穏やかで詩情あふれる作品です。
Jean-François Millet (1814-1875)
ジャン=フランソワ・ミレーは、フランスの画家です。彼は、農民の生活や農村の風景を主題とし、質素で力強い筆致と、深い人間愛に満ちた作品を制作しました。「落穂拾い」や「種まく人」などの代表作は、当時の社会の底辺で生きる人々の尊厳を描き出し、多くの人々に感銘を与えました。彼の写実的でありながらも精神性の高い作風は、後のフィンセント・ファン・ゴッホをはじめとする多くの画家に影響を与えました。

Le retour du troupeau (1846)
《群れの帰還(Le retour du troupeau)》は、夕暮れ時に羊の群れを連れて帰る農夫の姿を描いた作品です。この絵は、ミレーが得意とした農民や農村の素朴な日常を表現したもので、静かで穏やかな雰囲気が漂います。薄暗くなる空の中、動物たちと農夫が帰路を歩む姿は、労働の終わりと自然の調和を象徴しています。

Un vanneur (1848)
《脱穀者(Un vanneur)》は、穀物を風でふるい分ける農民の姿を描いた作品です。この絵では、農民が一生懸命に作業を行っている様子が強調され、彼の力強い身体表現と共に、農作業の重要さと過酷さが伝わってきます。

Le repos des faneurs (1848)
《刈り取り後の休息(Le repos des faneurs)》は、刈り取り作業を終えた農民たちが休息を取るシーンを描いた作品です。暑い日差しの下、労働を終えた農民たちが休む姿が、ミレーの特徴である労働者への賛美と共に表現されています。

La tricoteuse (1856)
《編み物をする女性(La tricoteuse)》では、農村の女性の日常生活が穏やかに表現されており、ミレーの得意とする「労働の美」を感じさせます。編み物をする女性は静かで落ち着いた表情を浮かべ、周囲の自然と一体になった安定した生活の一コマが描かれています。

Des glaneuses (1857)
ミレーを代表する作品の一つ、Des glaneuses(落穂拾い)。
画面には、3人の女性がしゃがんで穀物を集める姿が描かれており、貧困層の女性たちの労働を尊厳をもって表現しています。
麦を収穫する際に、地面に落ちた穂は、貧しい人々が生きていくために収穫することが出来る権利として広く認められていました。(旧約聖書、レビ記に記載されていることに基ずく慣習)
この光景に感銘を受け、描いた作品と言われています。

Bergère avec son troupeau (1864)
《羊飼いの女性とその羊の群れ(Bergère avec son troupeau, 1864)》は、牧場で羊を見守る女性を描いた作品です。画面には、穏やかな表情の女性が群れを静かに見守りながら、自然と一体となった静かな瞬間を表現しています。
羊飼いは、ミレーの娘と言われています。

La fileuse, chevrière auvergnate (1868-69)
《糸を紡ぐ女性、オーヴェルニュ地方の羊飼い(La fileuse, chevrière auvergnate)》は、糸を紡ぐ女性を描いた作品で、オーヴェルニュ地方の羊飼いの生活を反映しています。画面では、女性が糸を紡ぎながら静かに作業をしており、その姿勢と表情には落ち着いた集中力が感じられます。
オーヴェルニュとアリエの滞在中に描いた作品です。

La petite bergère
《小さな羊飼い(La petite bergère)》は、羊を見守る少女の姿を描いた作品です。画面には、小さな羊飼いが群れを静かに守る様子が描かれており、彼女の無邪気で穏やかな表情が特徴です。

Le parc à moutons, clair de lune (1872)
《羊の牧場、月明かりの中(Le parc à moutons, clair de lune)》は、月明かりに照らされた夜の牧場を描いた作品です。夜の静けさの中で、羊たちが牧場で過ごしている様子が幻想的に表現されています。

Laitière normande à Gréville (1874)
《グレヴィルのノルマンディーの乳搾り女(Laitière normande à Gréville)》は、ノルマンディー地方の農村で乳を搾る女性を描いた作品です。画面には、乳搾りをする女性が穏やかに描かれており、彼女の表情や姿勢には農作業に対する落ち着きと集中が感じられます。
この作品は、ミレーが最後に描いた作品と言われています。
Louis Français (1814-1897)
ルイ・フランセは、フランスの風景画家、版画家、イラストレーターです。当初はリトグラフの分野で活動していましたが、後に風景画に専念し、19世紀後半には商業的に最も成功した風景画家の一人となりました。ジャン・ジグーに師事し、カミーユ・コローからも影響を受けました。

Orphée (1863)
《オルフェウス(Orphée)》は、ギリシャ神話のオルフェウスをテーマにした作品です。オルフェウスはその音楽で自然や神々を魅了する伝説的な音楽家であり、この絵では彼がリラ(古代ギリシャの弦楽器)を奏でる姿が描かれています。
Charles-François Daubigny (1817-1878)
シャルル=フランソワ・ドービニーは、フランスの風景画家であり、バルビゾン派から印象派への橋渡しをした重要な画家の一人です。彼は、自然を直接観察し、その瞬間的な印象を捉えることを重視しました。特に、水辺の風景や光の表現に優れ、セーヌ川やオワーズ川をボートで移動しながら制作することも多かったようです。
ゴッホが称賛した画家の一人です。

Moisson (1851)
《収穫(Moisson)》は、農作業の一環である収穫のシーンを描いた作品です。この絵は、田園風景の中で農民たちが麦を刈り取る様子を描いており、ドービニー特有の自然光と空気感の表現が印象的です。
まとめ
当時のフランスの美術界は、新古典主義の流れが強く、自然を描くことを一段低いものとみなしていました。
そんな環境の中で、これだけ多くの画家たちが新しい分野へ挑んでいったことはとても大変なことだったと思います。
バルビゾン派の画家たちはアカデミズムからの完全な脱却は出来ませんでしたが、多いに影響を受けた次の世代が印象派として、新たな境地を切り開いて行きます。
西洋美術も作品だけを鑑賞するのもとても楽しいのですが、簡単な美術史の流れを知っておくだけで、楽しさが倍増すると思います。
ぜひ、美術館を訪れた際は、そんなことを頭の片隅に浮かべながら鑑賞してみてください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
なお作品の解釈については、オルセー美術館公式ページを参考にさせて頂いております。
お時間のある方は合わせてご覧になってみてください。
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