イギリス・ロマン主義とラファエル前派:産業革命が生んだ詩情と革新

ロマン主義 イギリス 西洋絵画史
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18世紀後半から19世紀中ごろにかけて、イギリス美術はロマン主義とラファエル前派という二つの大きな潮流に彩られました。

産業革命による社会の変動を背景に、詩情豊かな風景画や、中世への憧憬を込めた作品が数多く生み出されました。

特にロマン主義の画家は、フランス印象派や象徴主義にも多大な影響を与えたことで有名です。

この記事では、イギリス・ロマン主義とラファエル前派の特徴、時代背景、そして代表的な画家たちについて解説します。

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イギリス・ロマン主義:詩情豊かな風景画と精神性の探求

イギリス、ロマン主義

イギリスのロマン主義は、主に「」から始まったと言われています。

特に、画家でもあり、詩人でもあるウイリアム・ブレイクの「Songs of Innocence」(1798)をロマン主義の始まりとする考え方もあります。

その後、ウィリアム・ワーズワース、サミュエル・テイラー・コールリッジ、ジョン・キーツ、バイロン、パーシー・ビッシュ・シェリーなど多くの有名な詩人が誕生しています。

絵画の世界では、風景画が多く描かれ、後の印象派に多大な影響を与えています。

特に代表的な画家は、ウイリアム・ターナージョン・コンスタンブルが挙げられます。

活動期間

1790年代頃から1837年頃まで。

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ラファエル前派:ラファエル以前への回帰、中世への憧憬

ラファエル前派(Pre-Raphaelite Brotherhood)

ラファエル前派」とは、名前の通り、ラファエル以前の芸術への回帰を目的とした芸術集団のことです。

基本的なスタンスは、反アカデミズムです。

ラファエルと言う名前が入っているので、一見ラファエルを手本にしているように感じてしまいますが、ラファエルはアカデミーが規範としているものなので、その決まりきった形になる前の芸術スタイルを追い求める、「ラファエルスタイルを破壊する」という意味で使われています。

ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの学生だった、ウィリアム・ホルマン・ハントジョン・エヴァレット・ミレイダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの3人によって設立されました。

後に4人のメンバーが加わり、計7人で活動を始めます。

しかし、ミレイは芸術性の違いから距離を置き、反アカデミズムであったのにもかかわらず、アカデミーの準会員となり、後にアカデミーの会長にまで登り詰めています。

またそれ以外のメンバーも私情などからバラバラになってしまいます。

活動期間は短かったラファエル前派ですが、中世の伝説や物語、詩などを題材に、細密な描写と鮮やかな色彩で作品を制作しました。

スコットランドの芸術家に大きな影響を与えたり、後のリアリズムや象徴主義に多大な影響を与えています。

教義

  1. 表現する真のアイデアを持っている。
  2. 自然を注意深く研究し、それらを表現する方法を知る。
  3. 従来の技術で直接的かつ深く心のこもったものに共感し、慣習的で自己顕示的なもの、型に囚われたものによって学んだものを排除する。そして
  4. 完全な絵画や彫像を作成することが、すべての中で最も不可欠である。

出典:ウィキペディア Pre-Raphaelite Brotherhood

活動期間

1848年頃から1853年頃まで。

アーツ・アンド・クラフツ運動とは

今回のテーマから少し離れますが、ラファエル前派の影響を受け、その後アールヌーボーに影響を与えた運動なのでご紹介させて頂きます。

アーツ・アンド・クラフツ運動

産業革命により大量生産が可能になると、職人による手工業は衰退の一途をたどるようになりました。

当然作られる商品は、何の魅力もない画一的なものになってしまいます。

また、機械による大量生産は、職人自体を必要としないので、それまで培われてきた技術の継承もなくなっていくことになります。

このような事態に対して、何とか職人を救うこと、芸術を現代の生活に落とし込もうとする動きを「アーツ・アンド・クラフツ運動」と呼んでいます。

モリス商会

アーツ・アンド・クラフツ運動を牽引したものの一つが、「モリス商会」です。

モダンデザインの父と呼ばれている、ウイリアム・モリスと、ラファエル前派のダンテ・ガブリエル・ロセッティ、モリスの友人エドワード・バーン・ジョーンズなどが中心となって設立された組織です。

モリス商会は、第1期と第2期があります。

  • 第1期:モリス・マーシャル・フォークナー商会(Morris, Marshall, Faulkner & Co. 1861–1875)
  • 第2期:モリス商会(Morris & Co. 1875–1940)

イギリス美術の時代背景:産業革命と社会の変化

産業革命:

  • 産業革命は、社会に大きな変化をもたらし、人々の生活や価値観に影響を与えました。

ヴィクトリア朝時代:

  • ヴィクトリア女王の治世下、イギリスは繁栄を謳歌しましたが、同時に社会問題も深刻化しました。

アーツ・アンド・クラフツ運動:

  • 産業革命による大量生産への反発から、ウィリアム・モリスを中心にアーツ・アンド・クラフツ運動が起こり、手仕事の価値が見直されました。

年表

1801年、1800年合同法の制定、アイルランド王国との合併

1815年、ナポレオン戦争終結

1815年~深刻な不況

1815年、蒸気機関車の発明

1819年、ピータールーの虐殺

1837年、ビクトリア女王の戴冠(ロマン主義の終わり)

1840年~自由貿易政策の導入

1848年、ラファエル前派結成

1853年、ラファエル前派解散

1861年、モリス・マーシャル・フォークナー商会設立

1875年、モリス商会設立

1880年、アーツ・アンド・クラフツ運動

代表画家

ジョセフ・ライト(Joseph Wright, 1734-1797)

  • 18世紀イギリスの画家。
  • 産業革命の時代を背景に、科学実験や人工照明の場面を描いた作品で知られています。
  • 代表作:「空気ポンプの実験」

サミュエル・パーマー(Samuel Palmer, 1805-1881)

  • 19世紀イギリスの画家。
  • ロマン主義の画家であり、神秘的で幻想的な風景画を多く残しました。

ジェイムス・バーシア(James Basire, 1730-1802)

  • 18世紀イギリスの版画家。
  • 多くの版画作品を制作し、ウィリアム・ブレイクの師としても知られています。

ヨハン・ハインリヒ・フュースリー(Johann Heinrich Füssli, 1741-1825)

  • スイス出身でイギリスで活躍した画家。
  • ロマン主義の画家であり、幻想的で劇的な作品を制作しました。
  • 代表作:「悪夢」

ジョン・コンスタブル(John Constable, 1776-1837)

  • 19世紀イギリスの画家。
  • ロマン主義の画家であり、自然をありのままに描いた風景画で知られています。
  • 代表作:「干し草の車」

ウィリアム・ブレイク(William Blake, 1757-1827)

  • 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したイギリスの画家、詩人、版画家。
  • ロマン主義の画家であり、幻想的で神秘的な作品を制作しました。
  • 代表作:「アダムとイブの嘆き」

ジョン・リネル(John Linnell, 1792-1882)

  • 19世紀イギリスの画家、版画家。
  • ロマン主義の画家であり、風景画や肖像画を制作しました。

トーマス・マルトン(Thomas Malton, 1748-1804)

  • 18世紀イギリスの画家、製図家。
  • 建築画家として知られ、ロンドンの都市景観を正確に描いた作品で知られています。

ジョセフ・マロウド・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner, 1775-1851)

  • 19世紀イギリスのロマン主義の画家。
  • 光と色彩の表現に優れ、風景画や海洋画を多く手がけました。
  • 代表作:「戦艦テメレール号」「雨、蒸気、スピード – グレート・ウェスタン鉄道」

トーマス・ローレンス(Thomas Lawrence, 1769-1830)

  • 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したイギリスの肖像画家。
  • 王室や貴族の肖像画を多く手がけ、華麗で優雅な作風で人気を博しました。
  • 代表作:「アーサー・ウェルズリーの肖像」

フォード・マドックス・ブラウン(Ford Madox Brown, 1821-1893)

  • 19世紀イギリスの画家。
  • ラファエル前派の創設メンバーではありませんが、その運動に深く関わり、社会的なテーマや歴史画を制作しました。
  • 代表作:「仕事」

ジョン・エヴァレット・ミレイ(Sir John Everett Millais, 1829-1896)

  • 19世紀イギリスの画家。
  • ラファエル前派の創設メンバーの一人であり、初期は緻密な写実描写で知られました。
  • 後年はより装飾的で人気のあるスタイルへと変化しました。
  • 代表作:「オフィーリア」

ウィリアム・ホルマン・ハント(William Holman Hunt, 1827-1910)

  • 19世紀イギリスの画家。
  • ラファエル前派の創設メンバーの一人であり、象徴的で道徳的なテーマを追求しました。
  • 代表作:「世界の光」

ウィリアム・マイケル・ロセッティ (William Michael Rossetti, 1829-1919)

  • 19世紀イギリスの文芸評論家。
  • ラファエル前派の画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの弟であり、その運動の理論的支柱でした。

ジェームズ・コリンソン (James Collinson, 1825-1881)

  • 19世紀イギリスの画家。
  • ラファエル前派の初期メンバーでしたが、後に脱退しました。
  • 代表作:「聖アグネスの昼」

トーマス・ウールナー (Thomas Woolner, 1825-1892)

  • 19世紀イギリスの彫刻家、詩人。
  • ラファエル前派の創設メンバーの一人であり、彫刻作品を制作しました。

フレデリック・ジョージ・スティーブンス (Frederic George Stephens, 1827-1907)

  • 19世紀イギリスの美術評論家。
  • ラファエル前派の支持者であり、その運動を擁護する記事を多く執筆しました。

ジョージ・フレデリック・ワッツ(George Frederic Watts, 1817-1904)

  • 19世紀イギリスの画家、彫刻家。
  • 神話や象徴主義的なテーマを扱い、ヴィクトリア朝の偉大な画家の一人として知られています。
  • 代表作:「希望」

ウィリアム・モリス(William Morris, 1834-1896)

  • 19世紀イギリスの工芸家、デザイナー、詩人、社会主義者。
  • アーツ・アンド・クラフツ運動の中心的指導者であり、手仕事の復興と生活と芸術の統合を提唱しました。
  • 壁紙、テキスタイル、家具、書籍など、多岐にわたるデザインを手がけました。
  • 代表作:ケルムスコット・プレスの書籍

エドワード・バーン・ジョーンズ(Edward Coley Burne-Jones, 1833-1898)

  • 19世紀イギリスの画家。
  • ラファエル前派の影響を受け、神話や伝説を題材とした幻想的な作品を多く残しました。
  • ウィリアム・モリスと親交が深く、モリス商会のためにステンドグラスやタペストリーのデザインも手がけました。
  • 代表作:「黄金の階段」

※ 分類が違う場合もあります。

ロマン主義、ラファエル前派以外の画家が多く含まれています。

カタカナ表記に関して実際の発音と異なる場合もあります。

人物相関図

西洋絵画史 イギリス ロマン主義 ラファエル前派 人物相関図

★ご利用の注意点★

上の代表画家の相関図です。

青い矢印は師弟関係を表していますが、実際はその関係がはっきりしていなかったり、ワークショップで働いたことがあるだけであったりします。

情報は英語版、フランス語版ウィキペディアを参考に製作しています。

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まとめ

イギリス・ロマン主義とラファエル前派は、産業革命による社会の変動を背景に、詩情豊かな風景画や、中世への憧憬を込めた作品を生み出しました。

彼らの作品は、後の芸術に大きな影響を与え、イギリス美術の黄金時代を築きました。

イギリスを代表する画家が多く誕生した時期であり、画家それぞれの作品は大変見応えのあるものばかりです。

特に、ウィリアム・ブレイクジョン・コンスタブルウィリアム・ターナーは必見です。

ぜひお時間のある方は、ご紹介させて頂いた画家の作品を色々と調べてみてください。

イギリス・ロマン主義に至る流れは以下でご紹介させて頂いております。

「フランス・ロマン主義」、「ドイツ・ロマン主義」については以下でご紹介させて頂いております。

イギリス・ロマン主義の流れは、「フランス・写実主義」「フランス・印象派」へ大きな影響を与えます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

西洋美術史の全体像は年表でご紹介させて頂いております。

合わせてご覧頂くと時代の流れが理解しやすくなると思います。

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