オルセー美術館コレクション、今回はロマン主義の作品をご紹介させて頂きます。
ロマン主義とは、18世紀末から19世紀初頭にかけて起きた社会芸術運動です。
オルセー美術館は、1848年から1914年までの作品を中心に展示されているため、残念ながら展示されている作品はごくわずかになります。
但し、フランスを代表する画家であるドラクロワの作品が展示されています。
バルビゾン派、印象派へも大きな影響を与えた画家ですので、西洋美術の流れを理解する上でも必見の作品です。
ぜひ立ち止まってご覧になってみてください。
それでは早速ご紹介させて頂きます。
ロマン主義とは
ロマン主義は、1780年頃から1830年頃までに起こった社会芸術運動です。
絵画だけでなく文学、音楽はもちろん、建築や政治的な分野にも影響を与えています。
また、フランスだけでなくヨーロッパ各地で起こった運動です。
フランス革命(1788-89)とナポレオン戦争(1803-15)による、社会的な混乱が背景にあります。
絵画に焦点を置くと、ロマン主義には一定のスタイルがあるわけではなく、画家の個性や感受性を重視した感情的な作品のことを指します。
フランスの美術界では、ロマン主義対新古典主義の構図が生まれました。
それぞれを代表する画家として取り上げられたのが、ドミニク・アングルとウジェーヌ・ドラクロワでした。
この対立を分かりやすく表しているのが、1824年サロンで発表された作品。
アングルの「Vow of Louis XIII(ルイ13世の誓願)」 と ドラクロワの「キオス島の虐殺」です。
アングルはアカデミズムの伝統にのっとった描き方で調和をはかり、ドラクロワは、1822年に実際に起きた事件をとりあげ、混乱や暴力を描きました。
この対立の流れは、後にアカデミズム対写実主義、アカデミズム対印象派などへ繋がって行きます。
なお、印象派はイギリスのロマン主義者、コンスタンブル、ターナーの影響を強く受けています。
出典:ウィキペディア Romanticism より引用
Eugène Delacroix (1798-1863)
ウジェーヌ・ドラクロワは、19世紀フランス・ロマン主義を代表する画家で、シャラントン=サン=モーリスで生まれ、パリで亡くなりました。
色彩の魔術師とも呼ばれ、感情豊かでダイナミックな画面構成、そして強烈な色彩表現が特徴です。古典主義的なアカデミスムとは対照的に、情熱的で自由な表現を追求しました。
ピエール=ナルシス・ゲランに師事しましたが、ピーテル・パウル・ルーベンスやパオロ・ヴェロネーゼといったバロックやルネサンスの画家の影響を強く受けました。また、同時代のテオドール・ジェリコーとも交流がありました。
1822年のサロンに出品した「ダンテとウェルギリウスの地獄行き」で注目を集め、1830年の七月革命を描いた「民衆を導く自由の女神」は、ロマン主義の象徴的な作品として広く知られています。
1832年にはモロッコへの旅行を経験し、その異国情緒あふれる光景は、彼の作品に新たなテーマと色彩をもたらしました。「アルジェの女たち」(1834年)はその代表的な作品です。
歴史画、文学作品からの題材、オリエンタリズム、肖像画、風景画など、幅広いジャンルを手がけ、後世の印象派やポスト印象派の画家たちに大きな影響を与えました。文学者シャルル・ボードレールとも親交が深く、彼の芸術観に共鳴しました。
絵画だけでなく、音楽や文学にも大変深い教養、知識があったと言われています。
ショパンやサンドなど友人も多かったようです。
なお、この時代のアカデミズムを代表する画家、ドミニク・アングルとはライバルと言うよりは犬猿の仲だったようです。

Chevaux arabes se battant dans une écurie (1860)
《Chevaux arabes se battant dans une écurie(馬小屋で争うアラブ馬)》は、ドラクロワの後期の作品です。
この絵は、アラブ馬たちが狭い馬小屋の中で激しく争う様子を、躍動感と劇的な構図で描いています。力強い筆致と豊かな色彩が特徴で、動物の筋肉の緊張や荒々しい動きが生き生きと表現されています。ドラクロワはモロッコ旅行を通してアラブ文化や馬への深い関心を抱くようになり、この作品にもその影響が色濃く表れています。

Chasse aux lions (1854)
《Chasse aux lions(ライオン狩り)》は、モロッコへの旅で得たインスピレーションをもとに描かれており、ライオンと人間の激しい戦いがドラマチックに表現されています。暴れる馬、襲いかかるライオン、戦う人々といった緊張感あふれる構図に、ドラクロワの力強い筆致と鮮やかな色彩が融合し、野性と人間の対峙を生き生きと描いています。
本来はもう少し大きな作品だったようです。1870年、ボルドー美術館の火災の際に切り取られてしまったようです。
Paul Huet (1803-1869)
ポール・ユエは、フランスのロマン主義の風景画家で、「風景画のドラクロワ」と呼ばれた画家です。パリで生まれ、同地で亡くなりました。
自然に対する深い愛情と、感情豊かな筆致で、フランス各地の風景や海景を描きました。テオドール・ジェリコーやウジェーヌ・ドラクロワと親交があり、初期には彼らの影響を受けましたが、次第に独自の自然主義的な風景画のスタイルを確立しました。
アントワーヌ=ジャン・グロに短期間師事しましたが、主に独学で風景画を研究しました。イギリスの画家ウィリアム・ターナーやジョン・コンスタブルの作品に感銘を受け、その影響も受けています。
ロマン主義的な作品が多く、バルビゾン派ではありません。

Le gouffre, paysage (1861)
《Le gouffre, paysage(深淵、風景)》は、荒々しく劇的な自然の力を描いたもので、深い谷や岩場、荒れた空模様などが印象的に表現されています。ユエは自然の崇高さや感情的な雰囲気を重視し、繊細な色彩とダイナミックな筆致で自然の神秘や威厳を描き出しました。
Theodore Chasseriau (1819-1856)
テオドール・シャセリオーは、フランスのロマン主義の画家で、サントドミンゴ(現在のドミニカ共和国)で生まれ、パリで亡くなりました。
新古典主義の巨匠ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの弟子でありながら、ウジェーヌ・ドラクロワの色彩や異国趣味にも強く惹かれ、二つの潮流を融合させた独自のスタイルを築きました。
幼い頃から才能を発揮し、11歳でアングルのアトリエに入りました。アングルの厳格な指導のもとで確かな素描力を身につけましたが、1830年代後半からはドラクロワの作品に感銘を受け、より自由で色彩豊かな表現へと傾倒していきます。
1846年のアルジェリア旅行は、彼の芸術に大きな影響を与え、オリエンタリズムのテーマを多く描くようになります。

Macbeth et les trois sorcières (1855)
《Macbeth et les trois sorcières(マクベスと三人の魔女)》は、シェイクスピアの悲劇『マクベス』の一場面を描いており、主人公マクベスが運命を告げる三人の魔女と出会う不吉な瞬間を表現しています。幻想的で神秘的な雰囲気、そして暗く渦巻くような色彩は、シャセリオーの象徴主義的傾向やロマン主義の影響をよく表しています。

Chefs de tribus arabes se défiant au combat singulier, sous les remparts d’une ville (1852)
《Chefs de tribus arabes se défiant au combat singulier, sous les remparts d’une ville(城壁の下で一騎打ちに挑むアラブ部族の長たち)》は、歴史的かつオリエンタリズム的な主題をもつ作品です。
アラブ世界の部族間の名誉と勇気を象徴する一騎打ちの場面を描いており、背景には重厚な城壁がそびえ、緊張感に満ちた構図が印象的です。

Tepidarium (1853)
《Tepidarium(テピダリウム)》(1853)は、官能的かつ古典主義的な作品です。
「テピダリウム」とは、古代ローマの公衆浴場におけるぬるま湯の部屋を指し、本作では入浴を終えた女性たちがくつろぐ優雅なひとときが描かれています。柔らかい光と繊細な肌の表現、美しい構図によって、肉体美と古代世界への憧れが見事に調和しています。
サロンに出品して好評を得た作品です。
Gustave Doré (1832-1883)
ギュスターヴ・ドレは、19世紀フランスの著名なイラストレーター、画家、版画家、彫刻家です。特に文学作品の挿絵画家として国際的に名声を博し、ダンテの『神曲』、ミルトンの『失楽園』、セルバンテスの『ドン・キホーテ』、聖書、エドガー・アラン・ポーの『大鴉』など、数多くの古典文学の印象的な挿絵を手がけました。
分類は難しいのですが、ロマン主義になるようです。

L’Enigme (1871)
《L’Enigme(謎)》は、普仏戦争(1870–71年)とパリ・コミューン後の荒廃を背景に描かれたとされ、戦場のような荒野に倒れた無数の死者を見下ろす、スフィンクスと天使のような人物が描かれています。彼らの静かな佇まいは、人間の苦しみや死、そして「なぜこれほどの悲劇が起きるのか」という謎(l’énigme)を象徴しています。
ドラマチックな構図とモノクロームに近い重厚な色調により、ドレ独特の神秘的かつ哲学的な世界観が表現された、彼の絵画作品の中でも特に深い精神性を持つ一作です。
画家としての作品は、ストラスブール近現代美術館に多数の作品が展示されています。
一部の作品をこちらでご紹介させて頂いております。
まとめ
いかがでしたか。
アカデミズムがテーマとしていた、神話や宗教的な作品とはかけ離れて、実際に起きた事件や、身の回りの出来事などを取り上げているのも特徴的です。
作品数が少ないので、物足りなさがありますが、ご興味のある方はルーブル美術館にドラクロワを始めとするロマン主義の作品が多数展示されていますので、ぜひ訪れて見てくださいね。
ロマン主義についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
なお作品の解釈については、オルセー美術館公式ページなどを参考に書かせて頂いております。
解釈については、あくまで参考としてお読みください。
お時間のある方は合わせてご覧になってみてください。
コメント