18世紀イギリス。
産業革命の波が押し寄せる中、美術界もまた大きな変革期を迎えました。
イギリスの絵画は、宗教改革の影響もあり、有名な画家が登場するのは、18世紀に入ってからになります。
そして19世紀に入るとイギリス絵画が最盛期を迎えます。
その最盛期を生み出す原動力になるのが、今回ご紹介させて頂く時代になります。
この記事では、イギリスにおけるロココから新古典主義への移行期に焦点を当て、その特徴、時代背景、そして代表的な画家たちについて解説します。
イギリス美術の黎明期:肖像画を中心に花開いたロココ
18世紀のイギリス絵画は、1707年合同法の制定以降、肖像画を中心に発展します。
初期には、トマス・ハドソン、アラン・ラムジーのライバル関係にある2人が中心となって発展させます。(肖像画が中心)
18世紀の後半にかけて、ジョシュア・レイノルズ、トマス・ゲインズバラといったロココの画家が活躍するようになります。
(後半は新古典主義になります)
ロココから新古典主義へ:時代の変遷と巨匠の誕生
18世紀後半になると、ジョシュア・レイノルズ、トマス・ゲインズバラといった巨匠が登場し、イギリス美術は黄金期を迎えます。
レイノルズはアカデミックな様式を確立し、ゲインズバラは自然光を取り入れた風景画や肖像画を描きました。
同時期、アメリカからベンジャミン・ウェスト、ジョン・シングルトン・コプリー、ギルバート・ステュワートといった画家たちがイギリスに渡り、新古典主義の様式を取り入れました。
彼らは、古代ギリシャ・ローマの歴史や神話を題材にした作品を制作し、イギリス美術に新たな風を吹き込みました。
19世紀にはロマン主義が強くなってくるので、イギリスでの新古典主義の時代は短いものになります。
イギリス美術の特徴:多様なジャンルと国際的な交流
肖像画の隆盛:
- 貴族や富裕層の肖像画が数多く制作され、イギリス美術の主要なジャンルとなりました。
風景画の発展:
- ゲインズバラやターナーなど、自然を題材にした風景画が発展しました。
国際的な交流:
- アメリカやヨーロッパ大陸からの画家たちがイギリスに渡り、多様な様式が交流しました。
- 特に、ベンジャミン・ウェスト、ジョン・シングルトン・コプリー、ギルバート・ステュワートなどが有名です。
王立芸術院の設立:
- 1768年に設立された王立芸術院は、芸術家の育成や展覧会の開催を行い、イギリス美術の発展に貢献しました。
イギリス美術の時代背景:産業革命と社会の変化
産業革命:
- 18世紀後半から19世紀にかけて、イギリスは産業革命を迎え、社会が大きく変化しました。
- 農業や、製鉄技術の発展、蒸気機関の発明などが挙げられます。
アメリカ独立戦争:
- 1775年から1783年にかけて、アメリカ独立戦争が勃発し、イギリスはアメリカ大陸の植民地を失いました。
ナポレオン戦争:
- 18世紀末から19世紀初頭にかけて、ナポレオン戦争が勃発し、イギリスはヨーロッパ大陸との関係が変化しました。
年表
1707年、1707年合同法の制定、グレートブリテン王国の誕生、スコットランド王国との合併
1765年、ジェームズ・ワットによる蒸気機関の発明
1768年、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(王立芸術院)の設立
1775年~1783年、アメリカ独立戦争
1798年~1814年、ナポレオン戦争
1801年、1800年合同法の制定、アイルランド王国との合併
代表画家
ジェラール・ゾースト(Gerard Soest, 1600-1681)
- 17世紀イギリスで活躍した肖像画家。
- オランダ出身で、イギリスに渡り、貴族や富裕層の肖像画を多く手がけました。
ジョン・ライリー(John Riley, 1646-1691)
- 17世紀イギリスの肖像画家。
- 宮廷画家として活躍し、ジェームズ2世の肖像画などを手がけました。
ジョナサン・リチャードソン(1667-1745)
- 18世紀イギリスの肖像画家、著述家。
- 肖像画家として多くの作品を残し、絵画理論に関する著書も執筆しました。
トマス・ハドソン(Thomas Hudson、1701-1779)
- 18世紀イギリスの肖像画家。
- ジョシュア・レノルズの師としても知られ、多くの肖像画を制作しました。
ハンス・ハイシング(Hans Huyssing, 1678-1752)
- 18世紀イギリスで活躍した肖像画家。
- スウェーデン出身で、イギリスに渡り、貴族や軍人の肖像画を多く手がけました。
フランチェスコソリメーナ(Francesco Solimena, 1657-1747)
- バロック後期のイタリアの画家。
- ナポリ派の画家であり、壮大なフレスコ画や祭壇画を制作しました。
- 代表作:「聖パオロの転向」
フランチェスコ・フェルナンディ (Francesco Fernandi, 1679–1740)
- イタリアのバロック・ロココ期の画家。
- ローマで活躍し、宗教画や神話画を制作しました。
アラン・ラムジー(Allan Ramsay, 1713-1784)
- 18世紀イギリスの肖像画家。
- 知的で洗練された肖像画で知られ、多くの著名人の肖像画を手がけました。
ジョセフファンアーケン(Joseph van Aken, 1699–1749)
- 18世紀イギリスで活躍したフランドル出身の画家。
- 服飾画家として知られ、肖像画の衣装部分を専門に描きました。
デビッド・マーティン(David Martin, 1737–1797)
- 18世紀イギリスの肖像画家。
- スコットランドで活躍し、多くの肖像画を制作しました。
フィリップ・レイナグル(Philip Reinagle, 1749–1833)
- 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したイギリスの画家。
- 動物画家として知られ、特に犬や馬の絵を得意としました。
ユベール=フランソワ・グラヴロ(Hubert-FrançoisGravelot,1699-1773)
- ロココ期のフランスの画家、版画家。
- イラストレーターとしても活躍し、多くの書籍の挿絵を手がけました。
ジョシュア・レイノルズ(Sir Joshua Reynolds, 1723-1792)
- 18世紀イギリスの肖像画家。
- イギリス王立芸術院の初代院長を務め、イギリス美術の発展に貢献しました。
- 代表作:「ネルソン提督の肖像」
トマス・ゲインズバラ(Thomas Gainsborough, 1727-1788)
- 18世紀イギリスの肖像画家、風景画家。
- レイノルズと並び、イギリスを代表する画家として知られています。
- 代表作:「アンドルーズ夫妻像」
アンゲリカ・カウフマン(Maria Anna Angelika Katharina Kauffmann, 1741-1807)
- 新古典主義の女性画家。
- イギリス王立芸術院の創立メンバーの一人であり、歴史画や肖像画を制作しました。
- 代表作:「歌」
ベンジャミン・ウェスト(Benjamin West, 1738-1820)
- アメリカ出身の画家。
- イギリスで活躍し、歴史画や宗教画を多く手がけました。
ギルバート・ステュワート(Gilbert Charles Stuart, 1755-1828)
- アメリカの肖像画家。
- 初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンの肖像画で知られています。
- 代表作:「ジョージ・ワシントンの肖像」
ジョン・シングルトン・コプリー(John Singleton Copley, 1738-1815)
- アメリカ出身の画家。
- イギリスでも活躍し、歴史画や肖像画を制作しました。
ジョージ・スタッブス(George Stubbs, 1724-1806)
- 18世紀イギリスの画家。
- 動物画家として知られ、特に馬の絵を得意としました。
- 代表作:「ホイッスルジャケット」
ジョセフ・カール・スティーラー (Joseph Karl Stieler, 1781-1858)
- ドイツの肖像画家。
- バイエルン王室の宮廷画家として活躍し、多くの著名人の肖像画を手がけました。
- 代表作:「ベートーヴェンの肖像」
フランツ・ヴィンターハルター(Franz Xaver Winterhalter, 1805-1873)
- ドイツの肖像画家。
- ヨーロッパ各国の王侯貴族の肖像画を手がけ、華麗な作風で人気を博しました。
- 代表作:「皇妃エリザベートの肖像」
アントン・ラファエル・メングス(Anton Raphael Mengs, 1728-1779)
- ドイツの画家。
- 新古典主義の画家として知られ、肖像画やフレスコ画を多く手がけました。
- 代表作:「パルナッソス」
フランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco Jose de Goya y Lucientes, 1746-1828)
- スペインの画家。
- ロマン主義の画家として知られ、宮廷画家として活躍しました。
- 初期には明るく華やかな作品を描きましたが、晩年は戦争や社会の暗部を描いた作品を多く残しました。
- 代表作:「カルロス4世の家族」「裸のマハ」「着衣のマハ」「我が子を食らうサトゥルヌス」
※ 分類が違う場合もあります。
新古典主義以外の画家が多く含まれています。
カタカナ表記に関して実際の発音と異なる場合もあります。
人物相関図

★ご利用の注意点★
上の代表画家の相関図です。
青い矢印は師弟関係を表していますが、実際はその関係がはっきりしていなかったり、ワークショップで働いたことがあるだけであったりします。
情報は英語版、フランス語版ウィキペディアを参考に製作しています。
まとめ
産業革命という大きな時代の転換期にあたるこの時期は、様々な作品が生み出されて行きました。
肖像画を中心に始まった18世紀のイギリス絵画も19世紀初頭には、風景画、日常の生活画、空想的な作品などが次々と製作されて行きます。
次回は、イギリス絵画の絶頂期でもある19世紀についてご紹介させて頂きます。
ヨーロッパ各地に大きな影響を与えた時期であり、皆様よくご存知の画家や、有名画家とのつながりなど色んな景色が見えてきます。
フランス、イタリアのロココ・新古典主義は以下になります。
- ロココ・フランス:華やかで優雅なルイ15世スタイル
- ロココ・イタリア:ヴェネツィアの美しい景観
- 新古典主義・フランス:ナポレオンの台頭、アンピール様式
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
西洋美術史の全体像は年表でご紹介させて頂いております。
合わせてご覧頂くと時代の流れが理解しやすくなると思います。
コメント