19世紀後半、伝統的な絵画の常識を覆し、光と色彩の表現を追求した「印象派」。
モネやシスレー、ルノワールなど、一度は耳にしたことがある巨匠たちが活躍した、日本でも非常に人気の高い芸術運動です。
現代でこそ非常に評価の高い印象派の画家たちですが、当時はどちらかというと落ちこぼれの集まりであり、何とか自分たちの作品を、多くの人に見てもらいたいという一心で行動した画家たちです。
また印象派の画家たちは、互いに大きな影響を与えあい、そして後の画家たちにも多大な影響を与えました。
人物相関図にはすべての関係を書くことが出来なかったのですが、大まかな流れでご紹介させて頂いております。
印象派とは
印象派とは?
印象派とは、19世紀後半のフランスで生まれた芸術運動です。
それまでの絵画が、歴史や宗教、神話を主題とし、細密な描写を重視していたのに対し、印象派の画家たちは、日常の風景や人物、光の移り変わりなどを、独自の色彩と筆致で表現しました。
印象派の特徴
- 光と色彩の表現:太陽光や照明など、光の移り変わりを敏感に捉え、豊かな色彩で表現しました。
- 筆触分割:絵具を細かく分割して描くことで、光のきらめきや空気の振動を表現しました。
- 戸外制作(プレネール):アトリエを飛び出し、自然の中で直接風景を描きました。
- 日常の風景を描く:それまでの絵画で主流であった神話や宗教画ではなく、日常の風景や人々を描きました。
印象派誕生の背景
当時のフランスでは、画家が作品を発表する場所は、1673年から始まったサロンに出品する以外に方法がありませんでした。
しかし時代とともに、出品数が増え続け、1798年のサロンから審査制度が導入されました。
審査制度が導入されると、当然、落選する画家が出てくるようになり、落選してしまえば画家として名を売ることが出来ないどころか、作品を売ることも出来ずに困窮し行き場を失う画家たちが多く出てくるようになりました。
落選者が増えれば増えるほど、審査に対する批判が大きくなり、1863年にナポレオン3世が、「Salon des refusés(落選者のサロン)」を開催するように命令を出します。
「落選者のサロン」には多くの人が訪れましたが、それは作品を鑑賞するために訪れたというよりは、批判するため、バカにするために人が集まったということになってしまいました。
そのため、「落選者のサロン」は僅か2回で開催が中止されてしまいました。
しかしそれでもサロンに入選することの出来ない画家たちは、「落選者のサロン」でも良いから発表の場所を作って欲しいという切実な願いを持っていました。
実際に1867年、1872年に請願しています。
ただアカデミズムの本流から外れた画家たちの意見が取り入れられることもなく、ついに1874年に自分たちで展覧会を開催します。
それが、「第1回印象派展」で、この時に出品した画家たちが中心となり、「印象派」が誕生します。
印象派展は、1874年に第1回が開催されてから1886年まで開催され、合計で8回、開催されることになります。
最後は、ドガと、モネ、ルノワールの対立から分裂したことが大きな原因となり終焉を迎えました。
名前の由来
印象派と言う名前は、1874年に、風刺新聞、Le Charivariに、批評家Louis Leroyが
「Impression, j’en étais sûr. Je me disais aussi, puisque je suis impressionné, il doit y avoir de l’impression là-dedans… Et quelle liberté, quelle aisance dans la facture ! Le papier peint à l’état embryonnaire est encore plus fait que cette marine-là1 !」
と評したことに由来しています。
(印象は受けたけど、作りかけの壁紙の方が良く出来ている)
この時に評された作品が、モネの「Impression, soleil levant (1874)」、現在はパリのマルモッタン・モネ美術館に展示されています。
出典:ウィキペディア Impressionnisme より引用
活動期間
1870年頃から20世紀前半まで。
年表
1798年、サロンに審査制度が導入される
1863年、カバネル、「ヴィーナスの誕生」、ナポレオン3世買い上げ
1863年、マネの「草上の昼食」がサロンで落選
1863年、Salon des refusés(落選者のサロン)を開催
1870年、第3共和政(Troisième République)発足
1871年、パリコミューン
1874年、第1回印象派展
1876年、第2回印象派展
1877年、第3回印象派展
1878年、万国博覧会
1879年、第4回印象派展
1880年、Salon des artistes français(それまでのサロンを引き継ぐ)開催
1880年、第5回印象派展
1881年、第6回印象派展
1882年、第7回印象派展
1886年、第8回印象派展(新印象派となる、スーラやシニャックが参加しているのが象徴的)
1889年、万国博覧会
1900年、万国博覧会
代表画家
エドゥアール・マネ(Édouard Manet, 1832-1883)
- 19世紀フランスの画家。
- 印象派の先駆者として知られ、伝統的な絵画の様式にとらわれず、近代的な主題や斬新な技法を取り入れました。
- 写実的でありながらも、光と色彩の表現に重点を置いた作品は、当時の美術界に大きな衝撃を与えました。
- 代表作:「草上の昼食」「オランピア」
エヴァ・ゴンザレス (Eva Gonzalès、1849-1883)
- 19世紀フランスの女流画家。
- マネの弟子であり、印象派の画家たちと交流がありました。
- 肖像画や風俗画を多く手がけ、繊細で優雅な作風で知られています。
- 代表作:「桟敷席のロジェール夫人」
クロード・モネ(Claude Monet, 1840-1926)
- 印象派の中心的画家。
- 光の移ろいを捉えた風景画を多く残し、「印象、日の出」などの代表作で知られています。
- 代表作:「印象、日の出」「睡蓮」
アルフレッド・シスレー(Alfred Sisley, 1839-1899)
- 印象派の画家。
- 風景画を多く描き、特に雪景色や水辺の風景を得意としました。
- 代表作:「モレ・シュル・ロワンの橋」
ピエール・オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir, 1841-1919)
- 印象派の画家。
- 人物画や風景画を多く描き、明るく幸福感あふれる作風で知られています。
- 代表作:「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」「舟遊びをする人々の昼食」
フレデリック・バジール (Jean Frédéric Bazille, 1841-1870)
- 印象派の画家。
- 人物画や風景画を制作し、初期の印象派の活動を支えました。
- 普仏戦争で戦死し、若くして亡くなりました。
- 代表作:「家族の集い」
カミーユ・ピサロ(Camille Pissarro, 1830-1903)
- 印象派の画家。
- 風景画や農村風景を描き、点描画法も試みました。
- 印象派の精神的支柱として、若い画家たちを指導しました。
- 代表作:「モンマルトル大通り、朝、曇天」
エドガー・ドガ(Edgar Degas, 1834-1917)
- 印象派の画家。
- バレリーナや競馬の場面など、都市生活の瞬間を捉えた作品で知られています。
- 代表作:「バレエの授業」「競馬場にて」
ポール・セザンヌ(Paul Cézanne, 1839-1906)
- 印象派の画家。
- 後期印象派の画家として知られ、自然を幾何学的な形態に分解して描きました。
- キュビズムの先駆者としても評価されています。
- 代表作:「サント=ヴィクトワール山」「カード遊びをする人々」
ベルト・モリゾ(Berthe Morisot, 1841-1895)
- 印象派の女流画家。
- 室内画や家族の肖像画を多く描き、繊細で優雅な作風で知られています。
- 代表作:「ゆりかご」
メアリー・スティーヴンソン・カサット(Mary Stevenson Cassatt,1844-1926)
- アメリカ出身の印象派の女流画家。
- 母子像を多く描き、親密な愛情表現で知られています。
- 代表作:「水浴」
マリー・ブラックモン(Marie Bracquemond, 1840-1916)
- 印象派の女流画家。
- 風景画や肖像画を制作し、鮮やかな色彩と自由な筆致で知られています。
フェリックス・ブラックモン(Félix Bracquemond, 1833-1914)
- 印象派の版画家、画家。
- 妻のマリー・ブラックモンと共に印象派の活動に参加しました。
ギュスターヴ・カイユボット(Gustave Caillebotte, 1848-1894)
- 印象派の画家。
- 都市生活の情景を写実的に描き、斬新な構図で知られています。
- 代表作:「パリの通り、雨」
レオン・ボナ(Léon Joseph Florentin Bonnat, 1833-1922)
- 19世紀フランスの画家。
- 写実的な肖像画や歴史画で知られ、アカデミックな作風で人気を博しました。
- 代表作:「アダムとイブ」
ウジェーヌ・ブーダン(Eugène Boudin, 1824-1898)
- 19世紀フランスの画家。
- 印象派の先駆者の一人であり、空や海、海岸の風景を多く描きました。
- クロード・モネに影響を与えました。
- 代表作:「トゥルーヴィルの浜辺」
ヨハン・ヨンキント(Johan Barthold Jongkind, 1819-1891)
- 19世紀オランダ出身の画家。
- フランスで活躍し、印象派の先駆者の一人として、水辺の風景や夜景を描きました。
- クロード・モネに影響を与えました。
フランソワ・オシャール(Jacques-François Ochard, 1800-1870)
- 19世紀フランスの画家。
- 新古典主義の画家であり、歴史画や肖像画を制作しました。
アルフレッド・ステヴァンス(Alfred Stevens, 1823-1906)
- 19世紀ベルギーの画家。
- フランスで活躍し、都会的な女性像や室内画を多く手がけました。
レオン・コニエ(Léon Cogniet, 1794-1880)
- 19世紀フランスの画家。
- ロマン主義の画家であり、歴史画や肖像画を制作しました。
- アカデミックな作風で知られています。
ルイ・ラモット(Louis Lamothe, 1822-1869)
- 19世紀フランスの画家。
- 歴史画家として知られ、アカデミックな作風で知られています。
フリッツ・メルビュー(Fritz Sigfred Georg Melbye, 1826-1869)
- 19世紀デンマークの画家。
- 海景画家として知られています。
アルマン・ギヨマン (Jean-Baptiste Armand Guillaumin, 1841-1927)
- 19世紀フランスの画家。
- 印象派の画家として知られ、風景画を多く手がけました。
- 代表作:「赤い夕日、パリの風景」
ポール・シニャック(Paul Victor Jules Signac, 1863-1935)
- 新印象派の画家。
- ジョルジュ・スーラと共に点描技法を確立し、色彩分割による光の表現を追求しました。
- ヨット愛好家でもあり、港や海を題材とした作品を多く残しました。
- 代表作:「ポール=アン=ベッサンの港の入り口」「アヴィニョンの教皇宮殿」
ジョルジュ・スーラ(Georges Seura, 1859-1891)
- 新印象派の画家。
- 点描技法を確立し、科学的な色彩理論に基づいて作品を制作しました。
- 緻密な計算と構成による画面は、静かで荘厳な雰囲気を漂わせています。
- 代表作:「グランド・ジャット島の日曜日の午後」「サーカス」
シニャックとスーラは、19世紀後半のフランスで、印象派の色彩理論をさらに発展させ、科学的な色彩分割と点描技法を確立しました。彼らの作品は、後のフォービズムやキュビズムなど、20世紀の美術に大きな影響を与えました。
ジャン=ポール・ローレンス(Jean-Paul Laurens, 1838-1921)
- 19世紀フランスの画家。
- 歴史画家として知られ、中世や宗教的な題材を扱った作品で人気を博しました。
- 劇的な場面や写実的な人物描写で知られています。
- 代表作:「教皇フォルモススの屍骸」
アルバート・ルブール(Albert Lebourg, 1849-1928)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家。
- 印象派の画家として知られ、風景画を多く手がけました。
- 特にセーヌ川沿いの風景を描いた作品で知られています。
ギュスターヴ・モラン(Gustave Morin, 1809-1886)
- 19世紀フランスの画家。
- 風景画家として知られています。
- バルビゾン派の影響を受け、自然の風景を写実的に描きました。
レオン・ジュール・ルメール(Léon-Jules Lemaître, 1850-1905)
- 19世紀フランスの画家、版画家。
- 風景画家として知られ、印象派の影響を受けました。
- 特にパリの風景を描いた作品で知られています。
ポール・セザー・エリュー(Paul César Helleu, 1859-1927)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家、版画家。
- ベル・エポックのパリの女性たちを優雅に描いた作品で知られています。
- 代表作:「桟敷席の女性」
ジャン・ルイ・フォラン(Jean-Louis Forain, 1852-1931)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家、版画家、イラストレーター。
- ドガの影響を受け、都会の風俗や社会風刺をテーマにした作品を多く残しました。
- 代表作:「法廷にて」
ジャン・フランソワ・ラファリ(Jean-François Raffaëlli. 1850-1924)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家、版画家。
- 都市の風景や労働者階級の人々を描いた作品で知られています。
- 代表作:「アブサンの飲者」
ジェームズ・アボット・マクニール・ウィスラー(James Abbott McNeill Whistler, 1834-1903)
- アメリカ出身でイギリスを中心に活躍した画家。
- 印象派の影響を受けながらも、独自の審美的なスタイルを追求しました。
- 代表作:「灰色と黒のアレンジメント第1番:画家の母」
アルフォンス・レグロス(Alphonse Legros, 1837-1911)
- フランス出身でイギリスで活躍した画家、版画家、彫刻家。
- 写実的な人物画や版画で知られています。
- 代表作:「死と木こり」
ジャン=アントワーヌ・コンスタンタン(Jean-Antoine Constantin, 1756-1844)
- 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したフランスの画家。
- 風景画家として知られ、南フランスの風景を多く描きました。
- 新古典主義的な様式で、正確な描写と繊細な色彩が特徴です。
フランソワ・マリウス・グラネ(François Marius Granet, 1775-1849)
- 18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したフランスの画家。
- 室内画や修道院の風景などを得意としました。
- 光と影の表現に優れ、ロマン主義的な雰囲気を醸し出す作品で知られています。
- 代表作:「アッシジのサン・フランチェスコ聖堂の修道院の内部」
エミール・ルーボン(Émile Loubon, 1809-1863)
- 19世紀フランスの画家。
- マルセイユを中心に活動し、南フランスの風景や風俗を描きました。
- バルビゾン派の影響を受け、自然を写実的に描きました。
ポール・ギグー(Paul Guigou, 1834-1871)
- 19世紀フランスの画家。
- 南フランスの風景を多く描き、印象派の先駆者の一人として評価されています。
- 明るい色彩と自由な筆致で、光あふれる風景を描きました。
ギュスターヴ・ワッパーズ(Gustave Wappers, 1803-1874)
- 19世紀ベルギーの画家。
- ロマン主義の画家として知られ、歴史画や肖像画を多く手がけました。
- 1830年のベルギー独立革命を題材にした作品で有名です。
- 代表作:「ベルギー独立革命の一場面」
ニケイズ・ドゥ・ケイゼー(nicaise de keyser, 1813-1887)
- 19世紀ベルギーの画家。
- 歴史画家として知られ、ベルギーの歴史や文化を題材とした作品を多く手がけました。
- 代表作:「コルトレイクの戦い」
シャルル・ベルラ(Charles Verlat, 1824-1890)
- 19世紀ベルギーの画家。
- 歴史画、オリエンタルな題材、動物画を制作しました。
- アントウェルペン王立芸術学院の校長を務めました。
リュドヴィック・ナポレオン・ルピック(Ludovic-Napoléon Lepic, 1839-1889)
- 19世紀フランスの画家、版画家。
- エッチング技法の復興に尽力しました。
- エドガー・ドガと親交があり、その影響を受けました。
- 代表作:「犬と海岸を散歩する娘」
※ 分類が違う場合もあります。
印象派以外の画家が多く含まれています。
カタカナ表記に関して実際の発音と異なる場合もあります。
人物相関図


★ご利用の注意点★
上の代表画家の相関図です。
青い矢印は師弟関係を表していますが、実際はその関係がはっきりしていなかったり、ワークショップで働いたことがあるだけであったりします。
情報は英語版、フランス語版ウィキペディアを参考に製作しています。
まとめ
いかがでしたか。
すでにご存知の多くの画家が登場したのではないでしょうか。
師弟関係や友人関係が多岐に渡るので、印象派ではない画家や次の世代の画家たちも多くご紹介させて頂いております。
また、一般的に印象派と言われている画家の中には、マネやドガ、ゴンザレスのように実際は印象派ではない画家たちも多くいます。
さらにある時期は印象派ではあるけど、前後は全く違う画風で描いている画家も多く見受けられます。
この時代の画家たちの心情や主義、エピソードなどは様々な本などで取り上げられていますので、ぜひご興味を持たれた方は、色々と調べて見てください。
きっと新しい発見があると思います。
印象派の作品は、日本も含めて数多くの美術館で鑑賞することが出来ます。
中でもパリのオルセー美術館は、世界一の印象派をコレクションしていると言われていますので、パリへお出かけの際は、ぜひお立ち寄りください。
オルセー美術館、印象派コレクションについてはこちらで詳しくご紹介させて頂いております。
ぜひ合わせてご覧になってみてください。
- オルセー美術館 コレクション マネ ドガ ゴンザレス 印象派に関係する画家たち
- オルセー美術館 コレクション シスレー モネ ルノワール 印象派を代表する3人の画家たち
- オルセー美術館 コレクション 印象派の画家を支えたカイユボット ピサロ モリゾなど
次回は「新印象派・ポスト印象派」についてご紹介させて頂きます。
印象派までのフランス美術史の流れは以下になります。
- 前期ルネサンス:何故ルネサンスは起こったのか?
- 初期ルネサンス:多くの技術革新
- 盛期ルネサンス:ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロによる完成形
- マニエリスム:新たな世界観への挑戦
- バロック・イタリア:劇的なシーンの登場
- 古典主義・フランス:ルイ14世スタイルの誕生
- ロココ・フランス:華やかで優雅なルイ15世スタイル
- 新古典主義・フランス:ナポレオンの台頭、アンピール様式
- ロマン主義・フランス:個人の感情を重視するドラクロワの登場
- ロマン主義・イギリス:イギリス絵画の黄金期
- アカデミック美術・フランス:権威主義、絵画のランク付け
- 写実主義・フランス:バルビゾン派の誕生、戸外での活動
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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