19世紀のオランダ絵画といえば、「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (Vincent van Gogh)」の名が圧倒的に知られています。
しかし、ゴッホだけが突出していたわけではありません。
アムステルダム印象派を始め、多くの優れた画家たちが独自の表現を追求し、豊かな芸術的土壌を形成していました。
また、隣国ベルギーでも、フランス印象派の影響を受けつつ、個性的な画家たちが活躍しました。
本記事では、19世紀オランダ・ベルギー絵画の人物相関図を通して、知られざる巨匠たちの繋がりと、彼らが育んだ芸術の多様性を紐解きます。
19世紀半ばのオランダ・ベルギー絵画
19世紀半ばのオランダでは、August Allebéの影響、または指導を受けた画家たちが中心となり、印象派の潮流が生まれました。
彼らは、アムステルダムを拠点に活動し、この時代の画家たちを「アムステルダム印象派」とも呼ぶことがあります。
19世紀後半には、19世紀を代表する画家、ゴッホがポスト印象派として活躍します。
一方、ベルギーでは、フランス印象派の影響を受けたエミール・クラウスが独自の画風を確立し、多くの画家たちに影響を与えました。
また、新印象派やポスト印象派の影響を受けた画家たちも現れ、ヨーロッパの芸術運動と連動しながら、多様な表現が展開されました。
アムステルダム印象派とは
アムステルダム印象派は、19世紀後半にオランダのアムステルダムを中心に活動した画家たちのグループです。
彼らは、フランス印象派の影響を受けつつも、オランダ独自の風景や風俗を題材に、明るい色彩と自由な筆致で表現しました。
- アウグスト・アレベが指導的役割を果たす
- 都市や農村の風景、日常生活を描く
- 明るい色彩と自由な筆致
ゴッホとオランダ・ベルギーの画家たち
ゴッホは、オランダで生まれ、ベルギーでも活動しました。
彼は、アムステルダム印象派やフランス印象派の影響を受けつつも、独自の表現を追求し、ポスト印象派の代表的な画家となりました。
ゴッホは、アントン・モーヴと親戚関係にあり、絵画の指導を受けています。
また、ベルギーでは、ウジェーヌ・ボッシュと親交を深め、芸術的な交流を行いました。
印象派・ポスト印象派とは
印象派、ポスト印象派については、こちらで詳しく解説しております。
合わせてご覧ください。
年表
1830年、ベルギー革命
1840年、オランダ、ウィリアム2世就任。
1848年、オランダ、議会制民主主義への移行。
1849年、オランダ、ウィリアム3世就任。
1886年、ゴッホ、パリへ移住。
1888年、ゴッホアルルに移住、ゴーギャンとの共同生活。
1890年、ゴッホ死去。
代表画家
アウグスト・アレベ(August Allebé, 1838-1927)
- オランダの画家、版画家、リトグラフ画家。
- アムステルダム印象派の主要な創始者の一人。
- 風俗画、風景画、肖像画など幅広いジャンルの作品を制作しました。
- アムステルダム王立アカデミーで教鞭をとり、多くの画家を育成しました。
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー(James Abbott McNeill Whistler, 1834-1903)
- アメリカ出身でイギリスを中心に活躍した画家。
- 印象派の影響を受けながらも、独自の審美的なスタイルを追求しました。
- 音楽用語を絵画のタイトルに用いるなど、絵画と音楽の融合を試みました。
- 代表作:「灰色と黒のアレンジメント第1番:画家の母」
ヤン・トーロップ(Jan Toorop, 1858-1928)
- オランダの画家。
- 象徴主義、アール・ヌーヴォーの画家として知られています。
- ジャワ島出身であり、東洋的なモチーフや神秘的な雰囲気を作品に取り入れました。
- 代表作:「3人の花嫁」
ヤコブ・マリス(Jacob Maris, 1837-1899)
- オランダの画家。
- ハーグ派の画家として知られ、オランダの風景を情感豊かに描きました。
- 空や水面の表現に優れ、詩的な雰囲気を醸し出す作品で知られています。
- 代表作:「ハーグの眺め」
ジョージ・ヘンドリック・ブライトナー(George Hendrik Breitner, 1857-1923)
- アムステルダムの都市生活を題材とした作品で知られています。
- 写真のような写実的な描写と、大胆な筆遣いが特徴です。
- 代表作:「ダム広場」「騎兵」
イサーク・イスラエルス(Isaac Israëls, 1865-1934)
- パリやロンドンなど、ヨーロッパ各地で活動しました。
- 都市の風景や人物を、軽快な筆致で描きました。
- 代表作:「キモノ姿の女性」
ウィレム・バスティアーン・ソレン(Willem Bastiaan Tholen, 1860-1931)
- 風景画家として知られ、オランダの田園風景や水辺の風景を多く描きました。
- 静かで穏やかな雰囲気を表現した作品が特徴です。
フロリス・ヴェルスター(Floris Verster, 1861-1924)
- 静物画家として知られ、花や果物を題材とした作品を多く描きました。
- 大胆な構図と鮮やかな色彩が特徴です。
ウィレム・デ・ズワート(Willem de Zwart, 1862-1931)
- 風景画家、肖像画家として知られています。
- ハーグ派の影響を受け、オランダの風景や人物を写実的に描きました。
ウィレム・ウィッセン(Willem Witsen, 1860-1923)
- 風景画家、版画家として知られています。
- アムステルダムの運河や街並みなど、都市の風景を多く描きました。
- 版画作品も多く残しました。
コンスタント・コルネリス・ホイスマン(Constant Cornelis Huijsmans, 1810-1886)
- オランダの画家。
- 風景画家として知られています。
- ハーグ派の画家たちに影響を与えました。
アントン・モーヴ(Anton Mauve, 1838-1888)
- オランダの画家。
- ハーグ派の画家として知られ、羊の絵を得意としました。
- ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの義理の叔父であり、ゴッホに絵画の指導をしました。
- 代表作:「羊飼いと羊の群れ」
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (Vincent van Gogh, 1853-1890)
- オランダ出身の画家。
- ポスト印象派の画家として知られ、鮮やかな色彩と力強い筆致で感情を表現した作品を多く残しました。
- 生前は評価されませんでしたが、死後、20世紀の美術に大きな影響を与えました。
- 代表作:「ひまわり」「星月夜」「自画像」
ウジェーヌ・ボッシュ(Eugène Boch, 1855-1941)
- ベルギーの画家。
- ポスト印象派の画家として知られ、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの友人でもありました。
- ゴッホの「詩人の肖像(ウジェーヌ・ボッシュ)」のモデルとしても知られています。
アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ(Henry van de Velde,1863-1957)
- ベルギーの画家、建築家、デザイナー。
- アール・ヌーヴォーの代表的な人物であり、建築、家具、工芸など幅広い分野で活躍しました。
- バウハウスの設立にも貢献しました。
アルフレッド・フィンチ (Alfred William Finch, 1854-1930)
- イギリス生まれの画家、陶芸家。
- ベルギーで活動し、新印象派の画家として知られています。
- 点描技法を用いた風景画や静物画を制作しました。
エミール・クラウス(Emile Claus 1849-1924)
- ベルギーの画家。
- 印象派の影響を受け、光あふれる風景画を多く描きました。
- 代表作:「太陽の川(レール川)」
ジョルジュ・モレン(George Morren, 1868-1941)
- ベルギーの画家。
- ポスト印象派の画家として知られ、風景画や人物画を制作しました。
- 素朴で詩情豊かな作風が特徴です。
ご質問に挙げられた画家たちについて、簡潔にご紹介します。代表作がある場合は追加します。
ジャン・フランソワ・ポルテール(Jean-François Portaels, 1818-1895)
- ベルギーの画家。
- オリエンタリストの画家として知られ、エキゾチックな題材の作品を多く残しました。
- アカデミックな作風で、多くの画家を育成しました。
テオ・ファン・レイセルベルヘ(Théo van Rysselberghe, 1862-1926)
- ベルギーの画家。
- 新印象派の画家として知られ、点描技法を用いました。
- 風景画や肖像画を多く手がけ、光と色彩の表現に優れています。
- 代表作:「読書する女性」
ジョルジュ・レメン(Georges Lemmen, 1865-1916)
- ベルギーの画家。
- 新印象派の画家として知られ、点描技法を用いました。
- 風景画や静物画、肖像画を制作し、装飾的な作品も手がけました。
※ 分類が違う場合もあります。
新印象派、ポスト印象派以外の画家が多く含まれています。
カタカナ表記に関して実際の発音と異なる場合もあります。
人物相関図

★ご利用の注意点★
上の代表画家の相関図です。
青い矢印は師弟関係を表していますが、実際はその関係がはっきりしていなかったり、ワークショップで働いたことがあるだけであったりします。
情報は英語版、フランス語版ウィキペディアを参考に製作しています。
まとめ
一般的には、ゴッホ以外、馴染のない画家が多いと思いますが、どの画家も大変素晴らしい作品を残しています。
どの美術館でも展示されているわけではないので、中々目にすることは少ないかもしれませんが、ぜひ見かけた際は、画家のつながりを思い浮かべて見てください。
次回は、「印象派・ポスト印象派」の流れとは少し違う形で誕生した「象徴主義」についてご紹介させて頂きます。
ポスト印象派までのフランス美術史の流れは以下になります。
- 前期ルネサンス:何故ルネサンスは起こったのか?
- 初期ルネサンス:多くの技術革新
- 盛期ルネサンス:ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロによる完成形
- マニエリスム:新たな世界観への挑戦
- バロック・イタリア:劇的なシーンの登場
- 古典主義・フランス:ルイ14世スタイルの誕生
- ロココ・フランス:華やかで優雅なルイ15世スタイル
- 新古典主義・フランス:ナポレオンの台頭、アンピール様式
- ロマン主義・フランス:個人の感情を重視するドラクロワの登場
- ロマン主義・イギリス:イギリス絵画の黄金期
- アカデミック美術・フランス:権威主義、絵画のランク付け
- 写実主義・フランス:バルビゾン派の誕生、戸外での活動
- 印象派・フランス:モネ、ルノワールの登場
- 新印象派・ポスト印象派:ゴーギャンの登場、新時代の幕開け
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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