印象派が切り開いた光と色彩の表現を、さらに発展させ、独自の芸術を追求した「新印象派・ポスト印象派」。
スーラ、ゴッホ、ゴーギャンなど、個性豊かな画家たちが活躍し、20世紀美術の扉を開いた重要な時代です。
本記事では、新印象派・ポスト印象派の画家たちの人物相関図を通して、彼らの繋がりや時代背景、代表作品、そして現代でも人々を魅了する理由を分かりやすく解説します。
新印象派とは
新印象派(néo-impressionniste)
1886年に最後の印象派展にGeorges_Seurat(ジョルジュ・スーラ)のUn dimanche après-midi à l’Île de la Grande Jatte(グランド・ジャット島の日曜日の午後)が出品されました。
この時が一般的に「新印象派」が誕生したとされています。
新印象派(néo-impressionniste)という言葉は、1886年に芸術評論家であるFélix Fénéonによって提唱されました。
新印象派は、印象派の光と色彩の表現を科学的に分析し、「点描」という技法を確立しました。
展示されている作品を見て頂ければ、作風はすぐに分かって頂けると思います。
新印象派や点描画についてはこちらで詳しくご紹介させて頂いております。
合わせてご覧になられてください。
活動期間
1884年から1900年頃まで
ポスト印象派とは
ポスト印象派(Post-impressionnisme)
印象派が行き詰まりを見せる中に、新しい表現スタイルを模索した画家たちのことです。
「ポスト印象派」は特別な運動や意識的なつながりはありませんが、印象派の影響を受けながらも画家たちは、それぞれの内面的な感情や思想を追求し、独自のスタイルを確立しました。
(その意味では新印象派をポスト印象派に組み込んで考えることも出来ます)
「ポスト印象派」という名前の由来は、イギリスの画家であり、美術評論家でもあった、Roger Fry (1866-1934)によって提唱されたもになります。
1906年にアメリカに渡ったRoger Fryが、セザンヌの作品を見ることにより考え出したものと言われています。
但し、一般的に広まるには、1910年、イギリスに戻ったRoger Fryが、「Manet and the Post-Impressionists(マネとポスト印象派)」と言う名で行った展示会がきっかけになっています。
活動期間
1880年頃から1910年頃まで。
ポン=タヴァン派とは
ポン=タヴァン派(École de Pont-Aven)
「ポン=タヴァン」とは、フランス、ブルターニュ地方にある小さな町です。
19世紀半ば、ゴーギャンを筆頭に多くの画家が集まったことで、「ポン=タヴァン派」と言うグループが形成されました。
象徴主義的な表現や、色彩による感情表現を追求しました。
ポン=タヴァン派については代表作品と共に、こちらで詳しくご紹介させて頂いております。
合わせてご覧になってください。
オルセー美術館コレクション ポン=タヴァン派 綜合主義の生みの親 ポールゴーギャン エミールベルナール
活動期間
1886年頃から1900年頃まで。
ナビ派とは
ナビ派(Nabi)
ナビ派の創設者はPaul Sérusier(ポール・セリュジエ)になります。
1888年に、ブルターニュ地方に滞在していたゴーギャンの下を訪れたセリュジエは、絵画に対して制約を設けず、自分自身が感じたことを純粋で鮮やかな色で表現するべきだという指導を受けます。
これに感銘を受けたセリュジエは、すぐに列車でパリに戻り、アカデミージュリアン(画塾)の仲間である、ボナール、ヴュイヤール、ドニなどにこの話を伝えます。
これがナビ派を結成するきっかけとなります。
Nabi(ナビ)は旧約聖書の「預言者」から名前をとっており、神秘主義、秘密主義的な部分が多くありました。
ナビ派は象徴主義に分類されることもあります。
ナビ派についてはこちらで詳しくご紹介させて頂いております。
合わせてご覧になってみてください。
オルセー美術館コレクション ナビ派 神秘主義が生み出す作品たち セリュジエ ボナール ヴュイヤール ドニ
活動期間
1888年頃から1992年頃まで。
年表
1862年、パリからカンペール( Quimper)まで鉄道が開通
1870年、フランス第三共和政
1884年、Société des artistes indépendants(独立芸術家協会)を設立し、Salon des indépendants(アンデバンタン展)を開催。
1886年、最後の印象派展、スーラのUn dimanche après-midi à l’Île de la Grande Jatte(グランド・ジャット島の日曜日の午後)が出品される。
新印象派の誕生。
1887年、エッフェル塔の建設が始まる
1888年、ナビ派結成
1889年、パリ万国博覧会の片隅にあるカフェで、GROUPE IMPRESSIONNISTE ET SYNTHÉTISTE(印象派と綜合主義のグループ展)を開催
1889年、エッフェル塔、一般公開
1891年、スーラ死去。
1891年、ゴーギャン、タヒチを訪れる。
1894年、ドレフュス事件
代表画家
ジョルジュ・スーラ(Georges Seurat, 1859-1891)
- 新印象派の創始者。
- 点描技法を確立し、科学的な色彩理論に基づいて作品を制作しました。
- 代表作:「グランド・ジャット島の日曜日の午後」「サーカス」
アンリ・ラマン(Henri Lehmann, 1814-1882)
- 19世紀フランスの画家。
- 新古典主義の画家であり、肖像画や歴史画を制作しました。
- アングルの弟子としても知られています。
アーネスト・ロラン(Ernest Laurent, 1859-1929)
- 19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したフランスの画家。
- 印象派の影響を受け、風景画や肖像画を制作しました。
- スーラの友人であり、新印象派の画家たちとも交流がありました。
マクシミリアン・リュス(Maximilien Luce,1858-1941)
- 新印象派の画家。
- 点描技法を用いながらも、労働者階級の生活や社会的なテーマを描いた作品で知られています。
- 代表作:「鉄工所」
エミール・ビン(Émile Jean-Baptiste Philippe Bin, 1825-1897)
- 19世紀フランスの画家。
- 肖像画や風俗画を制作し、写実的な作風で知られています。
ポール・シニャック(Paul Victor Jules Signac, 1863-1935)
- 新印象派の創始者。
- ジョルジュ・スーラと共に点描技法を確立し、色彩分割による光の表現を追求しました。
- 代表作:「ポール=アン=ベッサンの港の入り口」「アヴィニョンの教皇宮殿」
シャルル・アングラン(Charles Angrand, 1854-1926)
- 新印象派の画家。
- 点描技法を用い、風景画や農村風景を描きました。
アルベール・デュボワ=ピエ(Albert Dubois-Pillet, 1846-1890)
- 新印象派の画家。
- 点描技法を用い、風景画や静物画を制作しました。
アンリ・エドモン・クロス(Henri-Edmond Cross, 1856-1910)
- 新印象派の画家。
- スーラやシニャックの影響を受け、点描技法を用いながらも、より自由で色彩豊かな表現を追求しました。
- 代表作:「エリュの夕べ」
ロベール・パンション(Robert Antoine Pinchon, 1886-1943)
- フランスの画家。
- ポスト印象派の画家の一人であり、フランス西部の風景画を多く残しました。
- 特に、ノルマンディー地方の風景を明るい色彩と力強い筆致で描きました。
フェリックス・ヴァロットン(Félix Edouard Vallotton, 1865-1925)
- スイス出身の画家、版画家。
- ナビ派の画家として知られ、象徴主義的な作品を多く残しました。
- 木版画の作品は、鋭い線と大胆な構図で知られています。
- 代表作:「ボール」
アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec, 1864-1901)
- アール・ヌーヴォーの画家。
- パリのモンマルトルを舞台に、キャバレーや劇場の舞台裏、娼婦などの都市生活を描きました。
- 独特の視点と大胆な構図、鮮やかな色彩で、当時のパリの雰囲気を捉えました。
- 代表作:「ムーラン・ルージュにて」「ディヴァン・ジャポネ」
ポール・ゴーギャン(Eugène Henri Paul Gauguin, 1848-1903)
- 印象派の色彩に影響を受けつつも、より象徴的で精神的な表現を追求しました。
- タヒチやマルキーズ諸島など、南太平洋の島々で生活し、現地の自然や文化、人々を題材とした作品を多く残しました。
- 鮮やかな色彩と大胆な構図、そして象徴的な表現は、20世紀の美術に大きな影響を与えました。
- 代表作:「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」「タヒチの女たち」「黄色いキリスト」
エミール・ベルナール(Émile Bernard, 1868-1941)
- ポン=タヴァン派の中心的画家。
- クロワゾニスム(平坦な色面と輪郭線による表現)を提唱し、ゴーギャンに大きな影響を与えました。
- 代表作:「ブルターニュの女たちの踊り」
ルイ・アンクタン (Louis Anquetin, 1861-1932)
- ポン=タヴァン派の画家。
- クロワゾニスムの技法を用い、日本の浮世絵にも影響を受けました。
マイヤーデハーン(Meyer de Haan, 1852-1895)
- オランダ出身の画家。
- ゴーギャンの友人であり、ポン=タヴァンで活動しました。
シャルル・ラヴァル(Charles Laval, 1861-1894)
- ポン=タヴァン派の画家。
- ゴーギャンの友人であり、共にタヒチへ渡りました。
ウラディスラウ・スレヴィンスキー(Władysław Ślewiński, 1856-1918)
- ポーランド出身の画家。
- ポン=タヴァン派の影響を受け、象徴主義的な作品を制作しました。
エミール・シェフネッケル(Claude-Émile Schuffenecker, 1851-1934)
- フランスの画家。
- ゴーギャンの友人であり、彼の作品を収集しました。
ジョルジュ=ダニエル・ド・モンフレイ(George-Daniel de Monfreid, 1856-1929)
- フランスの画家。
- ゴーギャンの友人であり、彼の作品を収集しました。
アルマン・セガン(Armand Félix Abel Seguin, 1869-1903)
- ポン=タヴァン派の画家。
- ゴーギャンの影響を受け、象徴主義的な作品を制作しました。
ポール・セリュジエ(Paul Sérusier, 1864-1927)
- ナビ派の中心的画家。
- ゴーギャンから学んだクロワゾニスム(平坦な色面と輪郭線による表現)をナビ派に伝えました。
- 代表作:「タリスマン、タンプル騎士団の柵の風景」
ピエール・ボナール(Pierre Bonnard,1867-1947)
- ナビ派の画家。
- 親密な室内画や風景画を多く描き、鮮やかな色彩と装飾的な画面構成で知られています。
- 代表作:「朝食」「浴槽の裸婦」
モーリス・ドニ(Maurice Denis, 1870-1943)
- ナビ派の理論家。
- 「絵画とは、それが何であるかの前に、本質的に一定の秩序で組み立てられた色彩の平面である」という言葉で知られています。
- 代表作:「ミューズたち」
ジョルジュ・ラコム(Georges Lacombe, 1868-1916)
- ナビ派の画家、彫刻家。
- 木彫作品も制作し、象徴主義的な人物像や風景を描きました。
アンリ・ガブリエル・イベルス(Henri-Gabriel Ibels, 1867-1914)
- ナビ派の画家、版画家。
- 社会風刺的な版画やポスターを制作しました。
ポール・ランソン(Paul Ranson, 1864-1909)
- ナビ派の画家。
- 神秘主義的なテーマや装飾的な画面構成を特徴としました。
エドゥアール・ヴュイヤール(Édouard Vuillard,1868-1940)
- ナビ派の画家。
- 親密な室内画や人物画を多く描き、壁紙のような装飾的な画面構成で知られています。
- 代表作:「暖炉のそばで」
アリスティド・マイヨール(Aristide Bonaventure Jean Maillol, 1861-1944)
- ナビ派の画家、彫刻家。
- 彫刻家として有名ですが、ナビ派の画家としても活動しました。
- 代表作(彫刻):「地中海」
ケル・グザヴィエ・ルーセル(Ker-Xavier Roussel, 1867-1944)
- ナビ派の画家。
- 神話や寓話を題材とした作品を多く描き、幻想的な雰囲気を醸し出しました。
リップル・ローナイ・ヨージェフ(József Rippl-Rónai, 1861-1927)
- ハンガリー出身の画家。
- ナビ派の影響を受け、装飾的な人物画や風景画を制作しました。
シャルル・フレション(Charles Frechon, 1856-1929)
- フランスの画家。
- ポスト印象派の画家として知られ、ノルマンディー地方の風景画を多く手がけました。
- 光と色彩の表現に優れ、明るく開放的な作風が特徴です。
ジョセフ・ドゥラトレ(Joseph Delattre, 1858-1912)
- フランスの画家。
- ポスト印象派の画家として知られ、ルーアン派の一員でもありました。
- ルーアンの街並みやセーヌ川の風景を多く描き、独自の点描技法を用いました。
メアリー・フェアチャイルド・マクモニーズ・ロー(Mary Fairchild MacMonnies Low,1858-1946)
- アメリカの女流画家。
- 印象派の影響を受け、風景画や肖像画を制作しました。
- フランスでも活動し、サロン・ド・パリで入賞するなど、高い評価を得ました。
アンリ・マルタン(Henri Martin, 1860-1943)
- フランスの画家。
- 象徴主義的な風景画や人物画を制作し、点描技法も用いました。
- 詩情豊かな作風で知られています。
- 代表作:「夕暮れの庭」
アンリ・ル・シダネル(Henri Le Sidaner, 1862-1939)
- フランスの画家。
- 親密な雰囲気の風景画や室内画を多く描き、静かで詩的な作風で知られています。
- 代表作:「ジェルブロワのテーブル」
ルーシー・クチュリエ(Lucie Cousturier, 1876-1925)
- フランスの女流画家、作家、批評家。
- 新印象派の画家として知られ、点描技法を用いました。
- 社会的なテーマを扱った作品も制作しました。
ジャン・バティスト・ラヴァストル(Jean-Baptiste Lavastre, 1834-1891)
- フランスの舞台装飾家。
- オペラ座などの舞台装飾を手がけました。
アントワーヌ・ギレメ(Antoine Guillemet, 1841-1918)
- フランスの画家。
- 風景画家として知られ、印象派の画家たちとも交流がありました。
- 代表作:「ベルシー河岸」
ジュール・グリューン(Jules Alexandre Grün, 1868-1938)
- フランスの画家、イラストレーター。
- パリの社交界や夜の風景を描いた作品で知られています。
※ 分類が違う場合もあります。
新印象派、ポスト印象派以外の画家が多く含まれています。
カタカナ表記に関して実際の発音と異なる場合もあります。
人物相関図


★ご利用の注意点★
上の代表画家の相関図です。
青い矢印は師弟関係を表していますが、実際はその関係がはっきりしていなかったり、ワークショップで働いたことがあるだけであったりします。
情報は英語版、フランス語版ウィキペディアを参考に製作しています。
まとめ
新印象派とポスト印象派の時代は、わずか20年位なのですが、とにかく多くの素晴らしい画家たちと、それまでにない多くの作品が世に出た時代です。
画家たちのつながりもとても興味深く、その中でも特に「ゴーギャン」の存在というものが、如何に大きかったか分かって頂けると思います。
ご興味を持たれた方は、ぜひ画家それぞれのエピソードも調べて見てください。
次回は、フランス以外の「印象派・ポスト印象派」についてご紹介させて頂きます。
ポスト印象派までのフランス美術史の流れは以下になります。
- 前期ルネサンス:何故ルネサンスは起こったのか?
- 初期ルネサンス:多くの技術革新
- 盛期ルネサンス:ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロによる完成形
- マニエリスム:新たな世界観への挑戦
- バロック・イタリア:劇的なシーンの登場
- 古典主義・フランス:ルイ14世スタイルの誕生
- ロココ・フランス:華やかで優雅なルイ15世スタイル
- 新古典主義・フランス:ナポレオンの台頭、アンピール様式
- ロマン主義・フランス:個人の感情を重視するドラクロワの登場
- ロマン主義・イギリス:イギリス絵画の黄金期
- アカデミック美術・フランス:権威主義、絵画のランク付け
- 写実主義・フランス:バルビゾン派の誕生、戸外での活動
- 印象派・フランス:モネ、ルノワールの登場
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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